沿って, smartwatches 06/05/2022

クリエイティブコミュニティを醸成させるためにできることーーnarumin × 高尾俊介対談

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クリエイティブコミュニティを醸成させるためにできることーーnarumin × 高尾俊介対談

narumin(左)と、高尾俊介(右)

 直感的な操作で視覚的なプログラミングができる、TouchDesignerをはじめとしたノードベースビジュアルプログラミングツールをメインとした週末ワークショップやイベントの主催、およびデジタルエンターテインメント領域のコンテンツ開発を行うクリエイティブコミュニティ『Tokyo Developers Study Weekend』(以下、TDSW)の共同創業者であるnaruminによる連載「Behind the Tech People」。 同連載では、naruminがホスト役として、テックで世界を彩り、社会を前進させ、各々の理想を実現化させるクリエイター・経営者のヒストリーを聞き出し、これからクリエイターを目指す人たちの一助になるための対話を、全十回にわたって繰り広げていく。 第二回のゲストは、NFTアートプロジェクト「Generativemasks」が販売開始から2時間半ほどで1万個が完売するなど、大きなバズを生んだクリエイティブコーダー・高尾俊介氏。エンジニアとしてのキャリア、官民での活動、デイリーコーディングを継続し続ける理由、クリエイティブコミュニティを醸成させていくためにできることなどについて、話は次々と展開した。(リアルサウンドテック編集部)■narumin / Yuki NarumiTDSW | Tokyo Developers Study Weekend co-founder1996生まれ。大学在学中にノードベースソフトウェアを中心としたビジュアルプログラミングの週末勉強会を定期主催するTDSWを立ち上げる。世界中のクリエイター、アーティスト、ソフトウェア開発企業と連携しながら技術知見の共有と蓄積への貢献を活動指針とし、作り手の好奇心やニーズをキャッチアップした企画制作を行っている。■高尾俊介1981年熊本県出身。クリエイティブコーダー。2011年SNS上でIT用語と駄洒落による言葉遊びを競う「#takawo杯IT駄洒落コンテスト」を個人主催。2019年、プログラミングを日々の生活や来歴、風土や固有の文化と結びつけるための活動としてデイリーコーディングを提唱、現在も実践している。2021年、NFTアートプロジェクト「Generativemasks」を発表。発売から2時間あまりで1万個完売するなど話題となった。Processing Community Japan所属。第25回文化庁メディア芸術祭アート部門選考委員。narumin:まずは高尾さんの自己紹介をお願いします。高尾俊介(以下、高尾):現在は神戸市にある甲南女子大学のメディア表現学科というところで教員をやっています。自分が専門としているクリエイティブコーディングのほか、コンピュータを通じたものづくりや表現を中心に、コンピュータグラフィックスやデジタルファブリケーションなどの新しい分野にも触れながら教育者として、日々学生に教えています。narumin:ほかの大学の情報系だとC言語やRubyをやっている場合が多いですが、高尾さんが所属するメディア表現学科はユニークな印象です。高尾:プログラミングもTouchDesignerとp5.jsの2つを扱う授業をやっています。着任したのが2017年なので4年くらい経ちますが、不思議な魅力を持った学科だと思っていますね(笑)。文学部の中に身体表現や映像、漫画・アニメ、インターネットなど教員ごとに専門領域を持っているなか、僕はプログラミングを中心とした表現に関する領域で比較的自由にやらせてもらっています。narumin:次に高尾さんのヒストリーについて深堀りしていきたいと思います。もともとキャリアはエンジニアからスタートしたんですか?高尾:情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に通っていた頃は、主に写真や映像の研究をやっていました。プログラミングにも憧れはありましたが、「何か難しいなあ…」という思いが強く(笑)、あまり触れてこなかったんです。それでも、大学院を出て1年半くらいは、Web制作の会社でインタラクティブなWebコンテンツ制作の仕事をやっていました。ただ、あまり向いてないなと思い、Web制作会社を退社後は東京藝術大学の美術学部で助手を務めました。そこで今やっているような、クリエイティブコーディングや電子工作などを実務で触れるようになりましたね。学生に教育する傍ら、自分の中にどんどんインストールしていったんです。narumin:この辺りからアカデミックな領域で仕事するようになってきたんですね。高尾:でも、東京藝術大学の後はまた民間の仕事をやっているんですよ(笑)。narumin:結構、官民を往復してますね。高尾さん:その時々で進路を考えていたので、結果的に往復するような形になっていますね。助手を2年半やった際にデジタルで新しいものづくりをすることや、何かを作って表現する活動に面白みを感じていたのでオライリー・ジャパンへ入社したんです。そこで、Maker Faireの国内の活動にまつわる企画や運営に携わりました。narumin:現在、Processing Communityを運営する活動も精力的にこなされていますが、オライリー・ジャパンでの経験が生きているんですか?高尾:そうですね。、Maker Faireは何かしら作ったものを介して、コミュニケーションしていくなかで生まれる熱量が伝播していくのが特徴的です。こうした姿を見て、「未来の社会はこうなったらいいな」と思って熱心に取り組んでいましたね。Processing Communityの場合はコードを通じた制作活動なので、、Maker Faireとは少し違う形ではあるものの、作ることでつながるコミュニティという点は共通しています。自分がそこに関わっていくことは非常に意味のあることだと思っています。narumin:自分自身のものづくりで採用している技術やツールの延長線上にある未来を考えて活動しているのは希少な存在だと思っています。高尾さんが日課としてやっている「デイリーコーディング」では作った作品を毎日Twitterで投稿していますが、そもそも始めようとしたきっかけは何だったんですか?高尾:プログラミングを始めようと思ったのが2015年ですが、すごい理由があったかというとそうでもなくて……。楽しんでやれることを何か見つけたいなと思ってプログラミングをやり始めたんです。また、Processingをなぜ選んだかというと、言葉にするのは難しいですが、当時の自分の状況と照らし合わせたときに何となくしっくりきた感じがしたんです。自分の制作活動に使う「道具」のようなものがほしかった気持ちもありましたね。今みたいに、自分で作ったものをSNSで投稿を続けるようになったのは2019年から。それまでコードは書いていましたが、パソコンのローカルに保存しているだけで誰にも見せていませんでした。narumin:なるほど。SNSに公開するようになった背景はあるんですか。高尾:とあるイベントでプレゼンをしたときに、自分の活動をもっとみんなに見てもらってもいいかなと思って、公開することにしたんです。結果的には自分にとっていいことしかなくて。リアクションをもらえたり、自分の書いたコードを誰かが書き換えて新しいものを作ってくれたりすることで、自分のインスピレーションにつながるきっかけにもなりました。また、今のProcessing Communityにあるような、コードを書き換えながら色々とやりとりしていくなかで楽しい雰囲気を醸成できたことも、良かったと思っています。narumin:Twitterに自分の作品を公開することで、いろんな人とインタラクティブに意見交換や技術・知見の共有をしていっているわけですが、さらに延長線上に今話題のNFTがあると思っています。ここからは高尾さんが2021年に立ち上げたNFTアートプロジェクト「Generativemasks」の概要について教えてください。高尾:2021年8月に立ち上げたプロジェクトで、プログラムで作成したグラフィックで、毎回カラーバリエーションやパターンが変わるユニークな作品になっています。これをNFTというブロックチェーン技術を使ったデジタルアートの売買の仕組みを使って10,000点を販売したんですが、ありがたいことに販売開始から2時間半くらいで全て完売してしまうほどの反響だったんです。narumin:本当にすごいですよね……! Generativemasksを出品しようと思った経緯は何ですか。高尾:今年の1月くらいから、自分が関わっているクリエイティブコーディングの界隈でもNFTアートを発表する人が増えている状況を目にしていました。当時は「こういう世界があって、面白そうだな」と思っていたくらいでした。そんななか、Processing Communityのメンバー経由で、NFTアートの制作に誘われたのがきっかけで取り組もうと思ったんですね。なので正直なところ、興味本位でやってみようというのが強かったです。このプロジェクトの重要なポイントとしては、売れた作品の個人の収益を全額を寄付するというのが特徴で、もしNFTアートをやるなら、最初から寄付するプロジェクトにしようと考え、アイデアや企画を練っていきました。narumin:出品段階では、まさかこんなにもセンセーショナルなことになるとは想像もつかなかったんですよね?高尾:そうなんですよ(笑)。最初から完売することを目的にしていたわけではないです。ただ、もともと作っていたグラフィックをブラッシュアップし、ジェネラティブアートとして昇華させていったんですけど、出来上がっていく過程で「これ、かっこいいかも」と実感を得るようになりました。あまり見たことのないものを作っている感じがして、「売れてほしいな」という思いや期待感が高まってきたんです。narumin:なるほど。誘われて気軽に始めてみたものの、制作していく過程や出品をしたことで、自分にとっても新しい発見につながったのは面白いですね。高尾:NFTアートに関して色々と学んでいますが、やはり実際に販売してみないとわからなかったことは多くありますね。また作品形態にもよりますが、NFTアートはただ売って終わるわけではないんです。Generativemasksで販売した10,000点のグラフィックを販売するということは、数千人の購入者がいるわけで、その購入者とコミュニケーションする場が必要になってくる。今ではGenerativemasksのDiscordのコミュニティに7,500人(11月30日時点)が参加するような規模になっています。narumin:本連載で対談相手に必ず聞いているんですけど、ズバリ「高尾さんみたいなキャリアを目指す」にはどうすればいいんでしょうか。高尾:そうですね。あまりオススメしないですけど......(笑)。まず、自分が自分らしくあるためには、世の中で価値付けされているものに惑わされず、自分の興味関心が湧くものに夢中になることでしょうか。現代社会は利便性や機能性などを追及し、皆それぞれ目的を探している時代になってきているように感じています。正解や最短距離を探しているというか。もちろんそれもすごく大事なことです。でも一方でそういった既存の価値観に惑わされず、自分の中にしかない価値や何かに夢中になっているときの楽しさなど、『自分がどう思っているか』を常に確かめながら活動を続けていくことも、キャリアや人生を考える上で大切なことだと思います。narumin:自分を見失わないようにすることって大事ですよね。高尾:はい。あとは人と関わることですね。一人で考えてもどうしても堂々巡りになってしまうでしょう。自分自身、4年間は独学の延長で一人でプログラミングを続けていましたが、コードを公開するようになってコミュニティの方々と関わるようになった2ヶ月間の方が成長できたと実感しています。自分の感情や気持ちをコードに込めることで情緒的表現ができるようになったり、さまざまな手法で自分らしいと思えるようなアウトプットできるようにがなりました。narumin:自分の中で成長を模索するより、フィードバックもらった方が学習スピードは速いですし、Twitter上で「いいね」の多い少ないではなく、非言語的なフィードバックも成長の糧になりますよね。高尾:最近では完成したものではなく、制作途中のものや過程をTwitterに投稿するようにしています。リアクションから意見をきいたり、方向性を変えたりする際の参考にしていますね。これからの時代は一人で作るのではなく、コミュニティに属して人と関わりながら作っていくと、自分にはないクリエイションの視点を取り入れることができ、よりいいものができるのではないでしょうか。作品をコミュニティ内でシェアし、共創しながら作品づくりを進めていくことは自分自身の成長にも繋がっていくと思います。narumin:ありがとうございます。今後のことをお聞きしたくて、ProcessingやGenerativemasksのコミュニティに還元していくために、どのような取り組みや活動を考えていますか?高尾:海外と比べて日本のクリエイターはものすごく技術的に高いものを持っていたり、ユニークな視点でものづくりをしていると作り手として感じています。ただ一方で言語や地理的な問題によって、作ったものの発信だったり伝わり方の部分で世界のマーケットと繋がれていないのが、自分のなかで問題意識として持っているんです。プロジェクトで得た寄付金をいくつかの団体に寄付したいと思っていますが、一過性の寄付では意味がなく、より良い日本のクリエイティブコミュニティを作っていくために、継続的な助成や支援を行えるような組織を作ろうと考えています。narumin:高尾さんが仰っているような問題は、TDSWも抱えています。コミュニティや教育の普及という文脈でやっていくと、やはり海外と繋ぐために運営資金を使うのは優先順位が下がってしまうんです。海外の有識者が有益な知見を共有しても、翻訳家が専門性や職能を理解していないと、日本語へ訳す際に意味の掛け違いが発生してしまって……。非常に難題だと感じています。ジェネラティブアート界隈では、クリエイターのほかに翻訳業やグローバルとの架け橋になるような役目を担う職業も生まれてくるんですかね?高尾:そうですね。クリエイティブコミュニティの抱えている共通の課題として、プレイヤーしかコミュニティに関わっていないことが挙げられます。研究者や翻訳者、キュレーターなど、スキルや知識に依らないさまざまなバックボーンを持った人がその人なりのやり方で関われるような空気感を作り、コミュニティを活性化させるような仕組みとエネルギーが必要なんだと思っています。narumin:おっしゃるように、ある種趣味で終わってしまうような側面が大多数を占めるビジュアルプログラミング界隈において、もっと社会と接続することによりクリエイターエコノミーを醸成し、クリエイターの方々が幸せになるようにしていきたいですよね。最後に何か読者の方へ伝えたいことなどありますか?高尾:グローバルと繋がれるのは大事な一方で、ローカルでやれることを見出すことも大切だと考えています。僕らがプログラムを使って自分を表現していくなかで、その根底にあるのはローカルの歴史や文化だったり自分自身が経験してきたことだったりするので、自分の住んでいる場所やそこで出会う仲間を大切にすることで、取り組んでいる活動の魅力を今以上に引き出せるのかもしれないと感じています。せっかく注目をされている状況なので、今住んでいる神戸で今後は何かしら活動できればいいなと。まずは小さいところから始め、だんだんと大きくしていきたいですね。narumin:コミュニティとしての選択肢を広げるのに海外と繋がることは重要でありつつも、クリエイションは自己表現に根付いているがゆえ、自分の土着の場所や価値観を成熟させていくのが求められるんだなと高尾さんの話を聞いて思いました。高尾:コンピューターで何か作るというのは、結局コンピューターの中にある技術を用いて作るので、そこだけで考えてしまうと、どこか似たり寄ったりなものができてしまいがちですよね。自分のバックグラウンドや経験、ローカルの文化などを織り交ぜていくことでオリジナリティを見出せるんじゃないかと、自分自身が作品づくりをしていくなかで感じています。今回のNFTアートのプロジェクトもさまざまな巡り合わせの結果として、自分の作品や活動が脚光を浴びたと思っています。他方で、「役に立つことや最初からゴールを目指さない」ような表現のためのプログラミングならではの魅力が発見されたことは、自分にとっては作品が評価される以上にエキサイティングに感じていて、もっといろんな人が関わってもらいたいと思っています。

古田島大介

最終更新:リアルサウンド