沿って, smartwatches 10/05/2022

嗚呼、水島作品よ永遠に!オールスターゲーム『激闘プロ野球』などを通して見た“野球狂の世界”―追悼・水島新司

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(写真:Game*Spark)

嗚呼、水島作品よ永遠に!オールスターゲーム『激闘プロ野球』などを通して見た“野球狂の世界”―追悼・水島新司

漫画家の水島新司先生が、2022年1月10日に肺炎のため亡くなりました。享年82歳でした。【特集】水島作品ファンライターによる水島作品ファンのための水島ゲーム作品紹介!水島先生は「ドカベン」をはじめ、さまざまな野球漫画を中心に長年活躍。「ドカベン」や「野球狂の詩」など多くの代表作がアニメ化もされています。また、ゲームでは1990年にファミリーコンピューター向け『水島新司の大甲子園』、2003年にPS2/ゲームキューブ/アーケード向け『激闘プロ野球 水島新司オールスターズVSプロ野球』などが発売、さまざまなメディアミックスも行われています。本稿では、ファミリーコンピューター『水島新司の大甲子園』とPS2版『激闘プロ野球 水島新司オールスターズ VS プロ野球』を紹介。水島新司作品を心から愛している筆者による、本作の素晴らしきこだわり部分をお届けしていきます。深すぎる野球愛!水島新司先生の人生水島新司先生(以下、水島先生)は1939年、新潟県の魚屋の家で生まれました。家の経済事情により高校進学を諦める、丁稚奉公として働くなど少年時代に苦労したエピソードがあり、こういった苦労の経験は「出刃とバット」など、水島先生の作品にも活かされています。働きながら絵の勉強を続け、1958年に投稿作が入賞。デビュー後は大阪に移り住み、貸本漫画作家として活躍していました。水島先生の初の野球漫画は、1969年に「週刊少年キング」に連載した「エースの条件」でした。以降は1970年「男どアホウ甲子園」、1972年「野球狂の詩」「ドカベン」、1973年「あぶさん」、1975年「一球さん」など、水島先生を代表する作品が次々と生み出されていったのです。そんな水島先生を象徴する作品として、1983年から連載された「大甲子園」を欠かすことはできません。異なる雑誌で連載された水島先生作品のキャラクターを、出版社の垣根を超えてクロスオーバーさせ、山田太郎の高校最後となる3年生夏大会を描いた「大甲子園」は、当時としても非常に画期的な作品だったようです。また、水島先生といえば、その深すぎる野球愛も有名です。多忙な漫画家業を続けつつ草野球を続けて汗を流しただけでなく、プロ野球選手との交流も非常に盛んでした。特に、代表作「あぶさん」の主人公・景浦安武が所属した「福岡ソフトバンクホークス」は、前身の「ダイエーホークス」「南海ホークス」の頃から“顔パス”で監督や選手たちと交流できたというのは有名です。水島先生の作品に登場するのを夢見る野球選手も多かったと言います。2018年にすべての連作作品を完結させ、2020年12月に63年間におよぶ漫画家引退を発表。2018年の読切「あぶさん~球けがれなく道けわし~」が最終作でした。2022年1月に亡くなるまで、野球と漫画への愛をどこまでも感じさせてくれる素晴らしい人物だったと思います。タクティカル野球ゲーム『水島新司の大甲子園』は今やっても面白い!さて、ここからは水島先生の野球ゲームを紹介していきます。まずは、1990年発売のファミリーコンピューター向け野球ゲーム『水島新司の大甲子園』。開発を手がけたのはカプコンです。本作はタイトルこそ「大甲子園」ですが、内容としては明訓高校の1年生夏から3年生夏までを描いており、どちらかと言えば「ドカベン」要素が多め。登場するチームも神奈川予選の強敵から甲子園の通天閣高校、いわき東高校、土佐丸高校、弁慶高校など勢揃いです。もちろん「球道くん」の青田高校、「一球さん」の巨人学園、「ダントツ」の光高校なども登場します。そんな本作ですが、ゲームとしてはアクションゲームではなくコマンド選択式の変則ルール。投手は「球種」「コース」を選択。打者は「コース」「スイング速度」を決定し、読みが当たればヒッティング成立になります。もちろん単純に打つだけでなく、バントやヒットエンドラン、盗塁などの作戦も選択可能です。守備はボールに追いつくまでは自動なのですが、捕球後にどのベースに投げるのかをリアルタイムで選択しなければなりません。また、二遊間などへの打球時は「セカンドとショートどちらが取るか」の選択肢も。アクション性は低く、適度に戦略性も高いので今ファミコン基準の処理速度で遊んでも十分に楽しめます。そしてなにより、本作の最大の特徴は必殺技の存在。殿馬(明訓)の「白鳥の湖」「黒田節」などの“秘打”や不知火(白新)の“超遅球”、影丸(クリーンハイスクール)の“背負い投法”、中西球道(青田)の“剛速球”など、一部のキャラクターは作品の印象深い投球や打法が使用可能です。使用のためにはパワーが必要になるため、連発はできませんが非常に強力で、原作ファンには非常に嬉しい要素です。また、各チームにいるキャラクターの再現度にも要注目。顔グラフィック付きのキャラは多くないのですが、打順やキャラ名はほとんど原作通りに設定されています。個人的には「ドカベン」の信濃川高校が完璧で嬉しい。でも、やっぱり谷津(横浜学院)くらいは顔グラ欲しかったな……とは思いますが。隠しチームには「男どアホウ甲子園」藤村甲子園の率いる“南波高校OBチーム”(OBにしないと「大甲子園」原作に南波高校が出ているため)、岩田鉄五郎率いる“東京メッツ”が登場。もちろん初の女性プロ野球選手でおなじみの水原勇気は“ドリームボール”を使用可能ですよ。登場チーム数も多くやりごたえも抜群。審判が何故か水島先生だったりと、ファンサービスもたっぷりです。今プレイしてみたら「左文字と武蔵坊と才蔵のグラフィック一緒だ!」となったり面白い発見もありました。水島漫画の集大成!『激闘プロ野球 水島新司オールスターズVSプロ野球』続いては、セガから2003年発売の『激闘プロ野球 水島新司オールスターズVSプロ野球』をご紹介。今回の記事ではPS2版でプレイしています。本作は、2003年のプロ野球界に水島漫画15作品から35人のキャラクターを参戦させたという作品。登場する実在の野球選手は実名で再現されているほか、オリジナル選手の作成も可能です。ゲームとしてはオーソドックスな野球ゲームで、歓声や実況などにもこだわった臨場感が抜群。実在の選手はポリゴンで、漫画の選手はトゥーン手法で分けられているのもユニークです。ちなみに2003年のデータなので近鉄バファローズが解散しておらず、まだ東北楽天ゴールデンイーグルスも存在していません。パ・リーグは近鉄ファンだった筆者は、チーム選択画面でもちょっとばかり涙が……。本作の最大の特徴は、ゲーム内で水島キャラのやり取りが非常に豊富なこと。「水島キャラ同士の対戦」「水島キャラでのバッテリー」「水島キャラが両チームの先発時」などの条件で、漫画のようなカットイン入りのセリフが用意されているのです。汎用セリフも多いのですが、特定の状況下や組み合わせでは特別なかけあいもあり、探し出すだけでも楽しい要素です。そしてもちろん、ゲーム内性能の再現も素晴らしい部分。“悪球打ち”の岩鬼はミートカーソルが「ストライクゾーンから離れるほど大きくなる」、殿馬がフォークを投げられる、山田がピッチャーだと「キャッチャーの構えで投げる」など、原作ファンには嬉しすぎる要素が満載。「これは再現されてるかな?」の部分は、かなり細かく作り込まれています。もちろん各キャラには原作要素の必殺技も用意されています。本作の漫画再現へのこだわりは逸品。キャラクターグラフィックやセリフ、一部キャラクターはアニメ版の声優を使用するなど原作へのリスペクトを感じます。メインモードの「選手名鑑」のテキストや、ゲーム中の実況(太田真一郎さん)が原作についてのちょっとしたエピソード(例:中西球道と明訓メンバーの対戦時に甲子園での18回延長の話など)を説明するのも最高です。ゲームモードもオープン戦やペナント、ホームラン競争など多彩。キャラクター作成モードでは、ポリゴンタイプからトゥーンタイプまでさまざまな顔にできるだけでなく、女性選手も作ることが可能です。トゥーンタイプの最後の選択肢が「山岡さん(明訓高校→東海大学→SS青森→東京スーパースターズ)」なのが個人的にアツすぎる……!プレイすればするほど発見のある本作。まさしく水島野球漫画ファンに捧げる最高の作品だと言えるでしょう。次のページでは、筆者による一部水島新司作品への解説、その愛を掲載。少しディープかも知れません。<cms-pagelink data-text=”水島新司作品の解説をチェック!” data-class=”center” data-page=”2”>水島新司作品の解説をチェック!</cms-pagelink>筆者の水島愛による作品紹介。読み飛ばしてもOKです!ここからは筆者による漫画紹介。部屋の本棚に目をやると「ドカベン」「野球狂の詩」「ストッパー」「一球さん」「男どアホウ甲子園」「光の小次郎」「白球の詩」などのコミックスの姿が目に入ります。■ドカベン山田太郎たちの活躍を描く「ドカベン」は言わずと知れた水島漫画の超代表作。緻密な作戦が楽しめる濃密な野球シーンや決して王道だけでない展開など、どの場面を切り取っても文句無しで楽しめます。31巻の試合は野球漫画の歴史に残るものだと思います。魅力的なライバル達も多数登場、個人的に好きなのは不知火・小林・犬神などです。特に小林は本編で中学時代から明確な“山田のライバル”として登場しながらも、さまざまな経緯で高校での対決が叶わなかったという、ある意味でリアルな境遇のキャラクター。「ドリームトーナメント編」にて再登場し、山田とバッテリーを組んだときに、筆者はついに報われたその瞬間に震えていました。「山田とライバルがバッテリーを組む」というのはとても好きで、「プロ野球編」のオールスターで不知火―山田バッテリーなども感激したものです。作中で有名な「ルールブックの盲点」は、2012年の甲子園で熊本代表の済々黌高等学校が再現。監督の話によると「ドカベン」を読んで実際に狙ったという話なので驚きです。松井秀喜氏が1992年に体験した「全打席敬遠」も、実は山田が体験しているのもクローズアップされていました。■ダントツ個人的に筆者の大好きな作品。「ドカベン」と「大甲子園」の間を埋める物語で、主人公の“ダントツ”こと三郎丸三郎が、超弱小チームの光高校野球部を甲子園の西東京代表まで導いていくストーリーです。両投げの異色投手・荒木新太郎やキャッチャー竹馬などの加入、ダントツの奇抜な作戦なども見どころです。作品としては全7巻で短め。迫力満点の青春野球漫画……という内容だけでは決してなく、他の作品では見れないようなユニークな展開も楽しめます。「大甲子園」での光高校vs南波高校との対決は見どころですよ。■野球狂の詩こちらも水島新司先生を代表する作品。全17巻で10巻までは、東京メッツやその周囲の野球選手や人物の人生を描く短編形式、以降は日本初の女性プロ野球選手・水原勇気をメインとするストーリー漫画になるのが特徴的です。水原勇気は、今でも女子野球関連のニュースで名前を見ることがあるほどに鮮烈な存在。彼女を中心としたストーリーは「女性がプロ野球に挑戦する」という大きなテーマに挑んでいます。野球協約との戦いや女性がプロ野球に挑む答えとして「たった一球のワンポイント起用」の駆け引き、魔球“ドリームボール”を巡る展開など、リアルさと漫画としての面白さが満載です。もちろん短編時代も、異色の経歴や曲者揃いのプロ選手どころか野球を知らない素人までも主役にした名作ばかり。漫画家の里中満智子さんと合作した「ウォッス10番」シリーズなども有名です。個人的には自由契約になったベテラン選手が、知り尽くした球場の癖を利用して活躍する「どしゃぶり逆転打」が大のお気に入りです。本作は「野球狂の詩 平成編」「新・野球狂の詩」と続編作品も後に掲載されています。岩田鉄五郎の持つ“50歳の現役投手”の肩書がファンタジーだった連載当時、まさか現実で登場することになるとは思ってもみなかったことでしょう。■ストッパー「野球狂の詩」のメインキャラクター・岩田鉄五郎を語る上で、この作品は絶対に外せません。大企業の次男という経歴の主人公・三原心平がプロ野球界で巻き起こす旋風を描いた物語です。三原は高校時代に大きな成績を残していないものの、あの手この手を駆使してプロ入り。プロ入りしてからは投手として、さまざまな「騙し」「駆け引き」「違反投球」などを駆使し、その後は身体能力を活かして外野手との“二刀流”の野球選手として活躍しています。大谷翔平氏の二刀流の活躍を聞くと、個人的にはいつも脳裏に浮かぶキャラクターです。その三原のライバルとして登場するのが東京メッツの岩田鉄五郎。「野球狂の詩」ではほとんど打たれるシーンばかりだった鉄つぁんですが、本作では熱い投手戦を展開したり、気迫や知恵で相手を抑えたりと素晴らしい活躍を魅せてくれます。鉄つぁんはほかの水島作品でもゲスト出演が多いのですが、「ストッパー」では選手としての魅力が最大限描かれていると思います。三原は最終的に自身の所属チームを買収し、新球団「大阪ドリームス」の選手兼オーナーになる驚きの展開を見せます。元々は、三原をメインとしてペナントレースストーリー中心の作品だったのですが、ドリームズ編からは新選手たちの主役短編が増えます。構成が「野球狂の詩(短編→ストーリー)」の逆になっているのは水島先生が意識しているのかは不明ですが、とても面白い対比になっていると思います。■一球さん野球素人の忍者の末裔・真田一球が、野球の名門である巨人学園で大波乱を巻き起こす物語。作品としては単体としても楽しめますが、水島先生の代表作「男どアホウ甲子園」の続編として描かれています。藤村甲子園や左文字、“豆タン”こと岩風も登場しますよ。野球愛があまりに深い水島先生は、その知識を活かして数々の作品で「野球音痴」を登場させています。真田一球こと“一球さん”もその代表なのですが、なにしろ忍者の末裔ということもあって身体能力や精神力がずば抜けた存在。だからこそ助かるシーン、だからこそピンチに陥るシーンなど、試合ごとに異なる魅力が描かれています。また、エリートチームの巨人学園の絶対的エース・大友との関係も見どころ。エリートゆえに精神力が弱い大友やチームメイトと、一球さんと仲間たちの関係性、そしてやがて迎える巨人学園野球部の決断と、一球さんがとんでもないチームで挑むことになる最終戦のテーマと結末は、あまりにも「巨(おお)きい」のです。■男どアホウ伝さまざまな雑誌で掲載した読切作品を集めた短編集。料理人とプロ野球選手、それぞれ異なる道を歩みつつ野球人生にすべてを捧げた2人のストーリーを描く「出刃とバット」、ベテランと大型ルーキーの2人のキャッチャーの人間模様を描く「赤いプロテクター」、死んだはずの野球選手があの世で“八百長”を条件に生き返る「幻球秘話」など、個性豊かな作品が収録されています。最終巻では実在のプロ野球選手である、江川卓氏と田淵幸一氏を描く5篇の作品を収録。水島先生は江川氏の高校時代に知り合い、それから家族ぐるみでの付き合いがあったと言います。「ドカベン」では江川氏や弟の中さんをモデルにしたキャラクター・中二美夫(二美夫は父の名前から)が登場しています。ちなみに、序盤でドラフト会議という制度に立ち向かう「光の小次郎」という作品では、三角トレードなど、いくつかの点で江川氏がプロ入りするまでのさまざまな騒動をベースにしたと思われる物語が描かれます。「光の小次郎」では、冒頭に札幌ドーム球場が登場。作品が描かれたのは1981年で、日本初のドーム球場・東京ドームが完成したのが1988年なので、この時期に札幌ドームを“予見”していたのは驚きを隠せませんね。※キリがないため、作品紹介は一旦ここまでとさせていただきます。「球道くん」「極道くん」「白球の詩」などの代表作はもちろん、短編の「草野球の神様」「草野球列伝」「くそ暑い夏」など、書きたいことはいくらでもあるのですが……。「銭っ子」「父ちゃんの王将」など野球作品以外も素晴らしいですね。水島先生は、2018年の引退前にすべての連載作品を完結させてくれました。(雑誌廃刊で終了した作品などもありますが)未完作品を出さずに代表作品を終わらせてくれたことは、作者のファンとして深い感謝しかありません。ただ、素直な感情としては、もう一作でも読切などが読みたかったな、という思いは否めません。なお、水島先生作品のゲーム化は、今回紹介した以外にアーケードゲーム『ドカベン』や、モバイル向けソーシャルゲーム『激投×激打!水島新司オールスターズ』も存在していました。残念ながらこちらは内容やスクリーンショットをお届けする術がないのですが、タイトルだけは紹介させていただきます。『激闘プロ野球 水島新司オールスターズ VS プロ野球』は比較的入手しやすい作品なので、まだ遊んでないという水島先生ファンの人には、その情熱を感じてもらえれば嬉しい一本です。最後に、天国の水島新司先生へ。駆け抜けた63年間の漫画生活、81年の人生、本当にお疲れさまでした。貴方の生み出した数々の作品を楽しませていただいた喜びと感謝は、決して忘れることがありません。天国でのびのびと野球を楽しんでいることを願います。また、ほとんど個人的ラブレターを書く機会を与えてくれたGame*Spark編集部に感謝します。

Game*Spark Mr.Katoh

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