稲垣えみ子「壊れかけのスマホ、心細さと絶望、繋がってほしい時に繋がらない恐怖」〈AERA〉
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9コメント9件元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。【写真】稲垣さん愛用の湯たんぽ 年始のリモート講演前にパソコンの電源が入らないトラブルに見舞われた稲垣さん。今回はその後日譚その2をお届けします。
*** 以前、パソコンの電源が入らなくなるという単純かつ恐ろしいピンチに見舞われた話を書いたが、弱り目に祟(たた)り目とはよく言ったもので、その恐怖を倍加させた出来事がありまして、なんと同時にスマホも壊れかけたのである。 写真撮影はもとより通信一切が絶たれる寸前。「原稿送れない」とも「ピンチだ助けて」とも言えなくなったらどうするよ。公衆電話? いや誰の番号も覚えてないし。 この期に及んではとにかく買い替え即決。携帯電話会社のHPから認定中古品購入のボタンを押して一件落着……なはずが、これが苦難の始まりだった。 数日後に到着したのは、中古とは思えぬピカピカのスマホ。気を良くして説明書に従い機種変更の手続きを取ろうとするも……あれ? そもそも電源が入らないんですけど? 慌てて壊れかけの旧スマホで何とか原因を検索し「充電されていない疑惑」に思い至り、気持ちを落ち着けて充電器に繋(つな)げとりあえず寝る。 翌朝。希望を胸に改めて電源スイッチを押すがピカピカ携帯は死体のままピクリともせず。次第に自分が信じられなくなる。スイッチの場所間違えてる? あるいはもっと根本的なところでスットコドッコイな何かやらかしてる? 50歳で会社を辞めてから、後悔はしてませんか? 本当に? 一度も? いやいやもう全くしてません! というやりとりを山ほどしてきた。それは本心だが今にして思えばちょっとだけ嘘(うそ)だった。まさに今フリーであることの心細さを痛感している。会社なら隣の同僚にちょっと相談すれば済むことが、一人だと世の中の進歩にどうしようもなく取り残されている絶望に転化してひしひし迫ってくる。 まずは誰かと話さねばと涙目で壊れかけ携帯で携帯ショップに電話すると、「ネットで買われたもののご相談は受け兼ねます」。電話の問い合わせ先をHPでようやく見つけるが「混み合ってる」アナウンス1時間。繋がることを目指す会社になかなか繋がれない。繋がりって何なんだ?(つづく)稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行※AERA 2022年2月28日号
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