「TUBE」デザイナー、斎藤久夫さんがアメリカンファッションを好む理由とは
「当時、アメリカは夢の国でした」と語るのは、「TUBE」でデザイナーを務める斎藤久夫さん。そんな斎藤さんが、アメリカのファッションと出合ったのは15歳のとき。いや、ファッションではなく、“スタイル”と言ったほうが正しいかもしれません。「当時、『おしゃれな服は“アメリカン・トラッド”だ』と聞いて、懸命(けんめい)に探して買い求めていました。僕の年代はファッションやモードというのは、女性のためのものでしたから…」と斎藤さんは語ります。
そんな斎藤さんは、「アメリカ服の魅力はカジュアルにこそある」と言います。「アメリカの服と言えば、ジーンズとTシャツです。アメリカはコットンの国。言い換えれば、実用服の国なのです。ボタンダウンシャツだって実用から生まれたもの。もっと言えば、工業製品的な服しかつくれない国だと思っています。あれは1971年でした。サンフランシスコのリーバイス工場に行ったのですが、縫製(ほうせい)はほとんどが直線。なぜかと尋ねたら、『今日工場に入った新人でも縫えるように』と(笑)。多民族国家だから、誰にでも似合うように直線的なシルエットになったという側面もあると思いますが、いい加減なところも多分にあると思いますよ」と、斎藤さんはコメントしました。
実にアメリカらしく合理的、ですが、「そこに魅力がある…」と続けます。
「それでいいんですよ。実用的、機能的、合理的であることがアメリカ服らしさだし、だからこそ世界に広がった。だって、どこでも誰でもつくれるんですから…。ただ、そんなアメリカ服の魅力も、続いたのは70年代ごろまででしょうか。いわゆるヘビーデューティ時代。雑誌『Made in U.S.A Catalog』が発刊されたころです。僕にとっては第2次アメリカ服ブームといった印象だったけど、これによりアメリカ服に開眼した人も多かったでしょうね。ただ、当時のアメリカ服の実情はぜんぜん違いましたけどね。大きく誇張された襟のシャツしかり、ソウルトレインの時代。そのころから、ファッション化していったんですね。僕は当時、アメリカの服を着ることはありませんでした。アウトドアブームがかろうじて、アメリカ服の魅力をつないでいてくれました」と、斎藤さんは話しました。
Kenichiro Higaスタイルがファッションへと変化したとき、アメリカ服の魅力は失われていったのだとか…。そして今、新たな局面を迎えていると斎藤さんは語ります。
「これからはマニアの時代。市場拡大のあとは服が陳腐化(ちんぷか)し、終わりを告げる。新しい、小さな服好きのブームが生まれました。アメリカ服の象徴であるジーンズさえ、もはや自分の国でつくらなくなってしまいましたから…。アメリカ製をうたうものでさえ、賃金の安い移民の労働力に頼っています。一度そうなると、文化は継承するのが難しい。期待はしていますが、すでに形骸化(けいがいか)している部分も大いにあります」
でも、悲観的に見ているばかりではありませんでした。希望はあると続けます。
「かつて僕をはじめ、多くの人を魅了したアメリカ服を取り戻すためには、全部じゃなく一部でいいからとことん深掘りすることが大事だと思います。極論を言えば、ジーンズとTシャツぐらいは、アメリカでつくっておいてよと(笑)。その2つは、どんな時代の要請にも応えられるアイテムですからね。まぁこれは、アメリカに限った話ではないですけど…。イタリアやフランス、日本だって同じ。アメリカは服飾を含め、その文化をこれまで世界にたくさん輸出してきました。そのせいで薄まったものがある一方、日本しかり、輸出した先で濃く残っているものもあります。ジーンズとTシャツのように、絶対に手放してはいけないものを再確認して、もう一度ファミリービジネス程度に縮小してきちんと継承すべきだと思いますよ」と、斎藤さんは話します。
辛口な苦言も愛あればこそ。「当時、僕にとってアメリカは夢の国であったのは、うそではないことですから…」と、斎藤さんは最後にコメントしました。
【PROFILE】TUBE デザイナー斎藤久夫さん
1945年、東京都生まれ。大学を中退し渡米。欧米など各地を回る。その後、メンズ・ファッション学院を卒業し、アパレルメーカーに入社。1979年に現在の会社「TUBE(チューブ)」を設立。メンズビギのディレクターをはじめ、さまざまなブランドやセレクトショップオリジナルのプロデュースなどで活躍。ブランド「チューブ」も手がける。
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