「他人の人生を生きない」ためのヒント(前編)
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今回のゲストは、圓窓(えんそう)代表の澤円さんです。日本マイクロソフトを2020年8月に退職し、数多くのベンチャー企業の顧問を務めています。『個人力――やりたいことにわがままになるニューノーマルの働き方』や『「疑う」からはじめる。 これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』など著書多数。Voicyでは『澤円の深夜の福音ラジオ』を配信する他、オンラインサロン『自分コンテンツ化
<ポイント>
・マイクロソフトを辞めてからの経緯
・なぜ日立製作所にジョインしたのか?
・ゲームのリセットがかかった瞬間は動いたほうが面白い
・変わりたくない人のマインドを変えて巻き込むコツ
・管理職研修で教える「Whyで会話しない」ということ
・「大きな主語」を使わずに解像度を上げていく
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■マイクロソフトを辞めるまで
倉重:今回は2回目のご登場となります、澤円さんです。非常に肩書がたくさんあり、どこから説明していいのか迷ってしまいます。大変恐縮ですが、自己紹介をいただいてもよろしいですか。
澤:圓窓という会社のぼっち社長です。マイクロソフトの業務執行役員を去年の8月末まで行っていました。辞めてから1年以上たちます。
マイクロソフトには23年勤めたのですが、辞めてふらふらしていたら日立製作所に声を掛けていただき、「Lumada Innovation Evangelist」を拝命しています。
だいたいの仕事は並走もしくは伴走と言ったほうがいいかもしれません。JAC Digitalというのはデジタルのアドバイザーです。エンジニアの採用をしたり、「DXに力を入れたい」と考えたりしている会社さんに、「どのような人材が必要なのか」という文脈でアドバイスをしています。
顧問契約をしている鹿島建設とは、実は30年近い付き合いがあります。僕は鹿島のスキー部なのです。学生時代のバイト仲間が新卒で鹿島に入り、「誰でも入れるからおいで」と言われて、スキー部に参加をしたのが新卒の頃です。
倉重:スキー部ですか。意外なつながりですね。
澤:今は失効していますが、スキーの正指導員という資格を一応持っています。そういうご縁があったので講演をさせていただいたら、たまたま社長さんが聞いてくださって「あの長髪の男は面白いから連れて来い」という話になったのです。今はデジタルや人材育成、マネージャー育成などの文脈で話をしたりしています。
倉重:結構入り込んでいるのですね。
澤:かなり入り込んでいます。ファストドクターは医療ベンチャーの企業なのですが、最初は完全にスタートアップだったので、「どのようにマーケティングメッセージを出せばいいのか」ということや、社長のピッチのアドバイスなど、ベンチャーならではの悩みどころを壁打ちしていました。
神奈川ダイハツ販売も歴史のある販売会社です。ある人から社長を紹介されて仲良くなり、顧問をしています。ここはマネージャー育成が一応メインです。
デジタルシフトクラブでは、DX文脈で「デジタルにシフトをしていきたい」という会社向けに、どのようなサービスが提供できるのかという、会社の根本の部分のデザインに入らせてもらっています。
倉重:これもかなり入り込んでいますね。
澤:それから『淳のスタートアップ!』という番組に僕がアドバイザー役で出たら非常に好評で、視聴していたm-labというソフト会社の社長が連絡をしてきて、顧問契約をしました。
倉重:すごいですね。どうつながるか分からないものですね。
澤:あとは先ほど配信したばかりですが、インターネットの音声配信「Voicy」でパーソナリティーをしています。
倉重:Voicyは毎日配信されていますね。
澤:プレミア放送を入れて、ちょうど昨日で1,400回でした。
倉重:それは凄い!あとはオンラインサロンなどもされていますね。
澤:オンラインサロンは2つ行っています。タグという意味で言うと、「テクノロジー全般」「サイバーセキュリティー」「マネジメント」「プレゼン」「セルフブランディング」「マルチキャリア」「他拠点生活」です。こちらのほうが抽象もしくは汎用という言い方ができます。
倉重:ありがとうございます。やはり澤さんといえばマイクロソフトの業務執行役員で、プレゼンの神様というイメージが強いので、マイクロソフトを辞めた後に日立にジョインすることに驚きました。そこのきっかけは何だったのですか?
澤:僕は「きっかけ」という質問にいつも困ってしまうのです。1個で決まったわけではなく、いろいろなものがつなぎ合わさって最終的にそうなったケースがほとんどなのです。
倉重:確かに「転職しよう」と思って辞めたわけではないですよね。
澤:マイクロソフトを辞めたのはCOVID19によるもろもろの影響を総合的に判断して、ということになります。
倉重:やはり、自分の中の価値観が変わられたのですか。
澤:変わったというよりは、選択肢として独立したほうが合理的だと思えたのです。僕はマイクロソフトのテクノロジーセンターを運営していましたが、COVID19の影響で、センターに行けなくなりました。アップデートをすることもプロジェクトとして進んでいたのですが、完全に頓挫してペンディング状態になりました。
センターに行くこともなく、コンテンツを提供するのも全部オンラインになったのです。だいぶ手離れもよくなっていましたし、「僕がいなくても大丈夫だろう」と思いました。やはり会社のルールの中で過ごすというのは窮屈になっていたのです。
倉重:お1人の活動もかなりありましたよね。
澤:多かったので、それなりにあつれきも生まれていました。こちらが気を付けているつもりでも、やはり引っ掛かってしまうところは出てきます。
僕も組織の一員ですから、組織の論理を優先してきている人たちを否定するわけにもいきません。その一方で外の顔もあるので、どうしようかなとなったときに、プロジェクトを手放しても大丈夫だと思ったので、ほとんど何も考えずに4月ぐらいに辞めると言いました。僕のいた会社は6月が期末なので、次のキャリアをそろそろ考えなくてはいけない段階でした。次に何をしようかと思ったときに、社内にはとにかくやりたい部署がなかったのです。
倉重:それで転職ということになったのですね。
澤:まず社内で転籍を含めた活動をしました。世界中の社内外の仕事をオープンにしている検索サイトを見たのですが、今はどうしても海外に行けないし、海外に行って同じ仕事をするのもつまらないと思ったのです。英語で仕事するのは疲れるし、別にいいかなと。海外にも国内にもやりたい仕事は全くなかったので、それでは転職しようかと考えました。競合は行きやすいのですが、全然選択肢にありませんでした。ただLinkedInには少し興味があったのです。
村上臣さんが日本代表をしているのですが、仲がいいのでチャットで「空きポジションはある?」と連絡をしたのです。
倉重:カジュアルですね。
澤:僕のことをよく知っている彼が「今は澤さんに合うのはないかな」と言ったので、そこで転職活動は終了。「じゃあ独立するわ」という感じです。臣さんも「絶対に独立のほうがいいと思う」と言ってくれました。
倉重:独立されてから順調そのものですね。
澤:うまくいかなければ転職活動すればいい、どこかが雇ってくれるだろうと思っていたので、とりあえず会社を辞めてフラフラしていたら、辞めることを待っていたかのような人たちから次々にお声掛けくださいました。
倉重:自由になったら一緒に仕事をしたいという人がたくさんいたのですね。
澤:声を掛けやすくなったのです。その典型がSlackです。
倉重:そうか!競合ですからマクロソフトにいる間は声をかけられませんよね。
澤:そうです。辞めてから「こういうものがあるから手伝って」という感じで依頼が来て、一緒にやることになりました。最近ではサイボウズさんもそうですね。競合だったところとも組めるようになり、自由度が跳ね上がりました。
倉重:そのほうが自分で選べていいですね。
澤:以前はZoom会議をするだけでいろいろと気を付けなければいけなかったのですが、今は気にしなくていい状態になりました。結局自由度が増して、ITベンダーみんながクライアントになり得る状態になっています。活動は大変しやすくなりました。
■日立製作所と澤さんは相性が良かった?
倉重:日立さんはニュースを見るとかなり変わろうとしているなと思うのですが、一般的には重厚長大的なイメージの企業です。澤さんを起用するというのは、すごく意外だなと思っている人が多いのではないでしょうか。
澤:日立はなんとなく「堅い会社」「真面目な会社」という印象を持っている人が多いですね。日本企業はだいたいそうかもしれませんが、内も外も解像度が粗いのです。細かく見ると日立と僕は相性がとても良いのです。日立は「返仁会(ヘンジンンカイ)」というのが中にあります。もともとは変わった人のいる「変人会」だったのです。変わった人を「尊い」とするのがカルチャーとしてありました。「イノベーティブなアイデアを実現していくためには、少し変わった思考が必要だよね」という考えが日立のDNAとしてあるのです。そういう意味で言うと、僕としては非常に相性が良いのです。
倉重:企業カルチャーとして、相性が良かったということですね。
澤:ただ、社内も社外もなんとなく「日立はきっちりとものづくりをする会社だ」という思い込みがどんどん磨かれていったのです。日立の人は「このままだと人材が獲得できないのではないか」「Global Logic社とのシナジー効果を生むときに、今のカルチャーのままだとうまくいかないのではないか」ということが気になり始めました。「本当の意味でDXを進めるのであれば、外部からのアイデアを入れてはどうか」というアイデアが出て、来るかどうかわからないけれど、僕に声を掛けてみようという流れになったのです。
倉重:ワンチャン狙ってみようかと。
澤:本当にそのノリだったらしいです。エージェントを通して声を掛けられ、バイトのつもりで受けたら記者会見まで開かれてしまい、「これはバイトではないな」と思いました。
倉重:バイト(笑)カルチャーはいいものがあるけれども、組織をさらに良くしていきたいという想いがあったのですね。
澤:そこの部分の言語化を、「内部だけだとしづらい」とみんな思っているのです。みんなが思っていることを言えないのは「裸の王様」とそっくりです。大人が言いたいけど言えないところに無邪気な子どもが入っていき、真実を言うことで前に進んだりします。
倉重:先ほど自己紹介していただいた他の会社なども、「もっと変革したい」という思いは共通なのでしょうね。
澤:間違いなくそうです。スタートラインがそろっている状態からのリスタートという意味では、1995年にそっくりなのです。
倉重:Windows95のときですか。
澤:「インターネット元年」と言われていますが、それを端的に表すのがWindows95の登場だと言われています。インターネット元年の前後で別世界なのです。今はポストコロナという意味合いで言うと、スタートラインは完全にそろっています。みんなが同じ状態、同じ状況と考えると僕の知見は十分に生かせるし、どこが始めても遅過ぎることはありません。
「ゲームのリセットがかかった瞬間は動いたほうが面白い」というのが僕の見立てです。95が出たときにはスモールステップとして、飛びつくようにパソコンを買いました。パソコンを買った人は周りにそれほどいませんでした。
倉重:一部のマニアだけが買っていたものから、パソコンがだんだんと一般のオフィスに広がっていった感じでしたね。
澤:そのかなり初期の段階で高スペックのものを買い、いじり倒しました。自分でメモリーを拡張してみたり、ボードを追加してみたり、手を動かすことも含めていろいろとやってみたのです。先行して知見をどんどんためていきました。文系出身でエンジニアとしてはポンコツで使い物にならなかった人間ですが、インターネットの時代に入ったらスタートラインはそろっている状態なので、1カ月、2カ月先行するだけでベテランになれます。
倉重:確かに大チャンスですね。
澤:一流ではないけれどもアーリーアダプターとしてスタートは早いので、先行した特権を取ることには成功体験があったのです。だから、COVID19でまたリセットかかりました。見回してみると、ラッキーなことにデジタル文脈で語れる人は絶対数でまだ少ないことに気づいたのです。
倉重:間違いないですね。
澤:これだけデジタルがインフラになり、DXと言われているのだけれども、それをマネジメントや別のタグを付けた状態で語れる人というのは、かなり少ないなと思いました。これだけいろいろなタグを知っているというのは絶対に武器になると思って、動いてみました。
■変わる会社と変われない会社の違い
倉重:いまだに企業は大小問わず、「コロナが終わったらリモートを辞めて出勤に戻そう」という考えで、意識が全く変わっていないところもあるわけです。変わる会社とそうでない会社の差は何だと思いますか?
澤:いろいろあると思います。一つは過去と現在のブリッジが強固過ぎるというのでしょうか。要するに、「過去の延長線上に今がある」と思い過ぎてしまうと、変えることに対して大変なリスクを感じてしまうということです。
倉重:過去の成功体験にとらわれているということですか?
澤:成功ではなくただのルーティンかもしれませんが、変えるというリスクが読めなくて怖いと感じます。例えば「社長に怒られるのが怖い」「今まで自分が築いてきた地位が崩れるのが怖い」「自分が行っている営業の活動が変わってしまうのが怖い」という人もいるかもしれません。なぜかというと、恐怖の根源は知らないことなのです。「知らないことが起きる」という恐怖に打ち勝てなくて、結局「変わらない」ということを選びます。そうすると先延ばしができるからです。
倉重:気付いたら泥舟が沈んでいたという話ですね。
澤:「この扉を開けたら、もしかしたら溶岩が降ってくるかもしれない」「矢が飛んでくるかもしれない」という恐怖があります。「沈むのは分かっているけれども結構先だろう」ということで変わらないという選択肢になるわけです
本人たちは多分「沈むのは1年後だから、1年の間に考えよう」と思っているかもしれません。でも、外に出ている人たちは「あれは30分で沈む。なぜあいつらは逃げないのか」と考えている可能性があります。
倉重:そこの見え方の違いでしょうか。
澤:おそらく声を掛けてくださったところは、「いつ沈むのか内側にいたら分からない」ということに気付いたのです。
倉重:外部の視点でずばりと言ってほしいということですね。実際にされてみていかがですか?
澤:やはり、外の視点はすごく重要なのだなと思います。僕が入っていろいろとアドバイスをするのですが、問題点の指摘というよりは、本人たちが持っているアセットの素晴らしさに気付いてもらうことのほうが多いのです。例えば倉重さんが「すごく襟足がかっこいいですね」と言われても、分からないですよね。
倉重:後ろは見えないですからね。
澤:だけど、その人の体の一部です。言われないと気付かない良さは、あちこちにあるのです。「肩甲骨の横の僧帽筋の付け根の部分が大変美しいですよ」と言われても分かりません。
倉重:(笑)確かにそれは周りの人から言ってもらわないといけないですね。
澤:そこを確認する方法を教えるわけです。合わせ鏡にして、「こうしたらここが見えますよ」と。
倉重:なるほど。実際に組織開発や人材育成もされている中で、そこを変える意欲がある人と変えたくない人が同じ会社の中でもいますよね。その時に、どのように巻き込んでいくのですか?
澤:みんなが「そうだと思った」と言える状態にします。対立軸を作らずに「知っていたでしょう?」と聞いて、「知っていた」と全員に言ってもらうやり方です。
倉重:言ったら分かってくれるものですか。
澤:ほとんどの場合はそうです。対立してくることはほとんどありません。「あとは行動をするだけだということは重々承知なのだけれども、かくかくしかじかで私は難しいと感じているのです」と言ってくることはあります。その時にはシンプルに「どんなお手伝いが必要ですか?」という具体的なアクションの相談になるわけです。もし「上の方が分かってくれない」「そこの言語は不十分だ」と突き返されるのだったら、そこのお手伝いはできます。
倉重:澤さんはテクノロジーと経営の翻訳が得意ですから。
澤:「僕が言って話が通るのならば、あらかじめ言って根回しをしておきましょうか」と提案します。何だったら「僕を悪者にしてみてはいかがですか」と。
倉重:私も、「弁護士がそう言っていますよ、と経営に説明して下さい」と人事の方に伝えていたりします。それは本当に外部の役目ですね。マネジメント層の方も研修をされていると思うのですが、マネジメントの在り方もかなり変わっていますね。
澤:「変わらなければならない」という危機感をようやく持ち始めたのかなという感じです。
倉重:でも、どうしたらいいか分からないという人が多くないですか。
澤:なぜかというと、誰も経験がないのです。多分ご存じだと思うのですが、グローバルで見たときに、日本は研修費というラーニングコストのうち、新入社員研修が極端に分厚いのです。欧米ではマネジメント層に対するランニングコストが結構高くなっています。日本はマネジメント層に対しては非常に薄くて、自分で覚えないといけません。
倉重:勝手にやれということですね。
澤:もう一つが、日本の企業の名誉職問題と僕は言っているのですが、「お前は営業の成績が大変良かったから給料を上げるために部長にしてやる」ということです。
倉重:論功行賞ですね。
澤:「給料を上げるためには昇格をさせなければならない。昇格をさせるならばチームを持たせなければいけない」という、ここが分離できていないのでおかしくなります。
倉重:その話は違いますよね。
澤:本人たちに強烈な成功体験があり、そこに自負を持っていたりすると、できない人たちに対して「なぜできないのか」という問いをするわけです。相手がなぜできないのか分からないのにマネジメントをしようと思うから、めちゃくちゃなアドバイスをするわけです。しまいには「できないお前は甘えている」などと言うのです。
倉重:名プレイヤーは名監督にあらずというやつですね。
澤:そういうギャップをいかにして消していくのかが僕の役割なのかなと思います。
倉重:管理職の方を集めた研修などではそう簡単に変わらないですね。
澤:研修の中でも、日々繰り返せるようなキーワードが提供できるかどうかが大事だと思います
倉重:例えばどういうことですか。
澤:チームメンバーの人に「Whyで会話しないでください」と頻繁に言っています。何かトラブルが起きたときに「なぜ言わなかったのか」「なぜそういうやり方をしたのか」「なぜこちらを選ばなかったのか」と、つい言いたくなるのです。
「Why」というのは、上の人が下の人に対して矢印を向ける行為と僕は言っています。下の人は重力がかかっているので、重たい矢印の向きを変えるのかすごく大変なのです。
「Why」はその人に向かっている矢印だから、「What」で聞いてくださいと言っています。要するに、「なぜそんなことをしたのか」ではなくて、「何があなたの行動を引き出したのか」という聞き方です。何かあったのか、何が問題だったのか、何が難しかったのかと。
倉重:何が原因でそうなったのかと。
澤:そうです。「何が分からなかった?」と言うと「私はこれが分からないです」「私はこれが苦手なのです」と言いやすいかなと思います。
倉重:あなたを責めているのではなくて、原因を探したいということですね。
澤:それに対して質問は1個だけ。How can I help you? どうしたら助けられますかと聞くのです。これはすぐにできます。
倉重:確かに、明日からできます。
澤:もっと言うと、自分がどれだけ「なぜ?」と聞きたくなるかを数えてみてください。多分、家に帰ってお子さんと会話をしているときに、ものすごく何度も言っていることに気付くはずです。距離が近い分、「なぜああなったのか」「なぜ片付けていないのか」とつい言ってしまうのですが、子どもたちからすると結構なストレスなのです。次のアクションとして、隠れてやるようになります。こちらのほうが問題としては大きくなりかねないのです。
倉重:「何がそうさせたのか」という原因に目を向けていると伝えるのですね。
澤:これはすぐにアクションに移れます。「まずこれをやってください」と言うと、現場でもコミュニケーションが全く変わるのです。
倉重:なるほど。本当にほんの少しの言い方の違いですけれども。
澤:あとは必ず「大きな主語を使うな」と言っています。「うちの会社」や「うちのチーム」「うちの部は」という言い方をするのではなく「私は」「あなたは」と言うのです。よく「お客さんが」と説明をする人がいます。「お客さんとは誰ですか」と聞くと、「何とかという会社」と言います。いや「会社さんという人はいないですね、誰ですか」と、どんどんと細くしていきます。「何々さんと会話をしているときにそんな話をした」ということが出てきたら、「なるほど、それは何々さんの意見なの。何々さんはその会社を代表してその話をしているエビデンスはあるの?」と聞いていくと「いや、その人の思い込みだと思います」という話になります。「それならその上を攻めようぜ」と戦略が変わりますよね。解像度が粗い状態をいかにして高くしていくかというところに思考を持って行きます。やっていることはこればかりです。
倉重:先ほど冒頭にも解像度の話がありましたけれども、何事もそうだということですね。
澤:その一方で、経営層はやはり解像度を粗くするというか、俯瞰(ふかん)するように広角で全体を見なければいけません。これをズームイン、ズームアウトと言います。小さくしたり、大きくしたりするのを繰り返せるようになりましょうと僕からは提案をさせてもらっています。
倉重:どちらも大事ですよね。
澤:「両方に興味を待ちましょうね」という言い方をします。1プレイヤーは、新卒の社員や経営層がどのような世界を見ているのかと興味を持ちましょうと。完全に理解をしろとまでは言いません。興味は持つのです。経営層は経営層で新入社員たちはどのような世界を見ているのかと興味は持ってもらいます。興味を持つと質問ができると思うのです。
倉重:確かに、分からないことがありますから。
澤:「これはあなたにとってどう見える?」という質問になると思います。そうすると、「私」と「あなた」の会話ができるのです。「これは正しい?」と聞かれると、答えるほうは非常に緊張するわけです。
倉重:正解を言わなければいけないと思いますしね。
澤:「私は」「あなたは」という細かいキーワードを使うことをきちんと意識をすると、会話は具体的になっていきます。ただ、具体的なだけだとピンポイントでしか役に立たない話ばかりになりかねません。今度は抽象的なものを取り出していくというアプローチになります。そして抽象度を高めていくのです。
倉重:タグのような感じですか。そういう話をすると、「うちの社員は当事者意識が少なくて」と相談されることはありませんか。
澤:その瞬間にすぐに言うのです。「誰のことですか」「Nイコールいくつですか」と。「Aさん、Bさん、Cさんの全員がそうですか?」というふうに、問い詰めるわけではありませんが、どういうシチュエーションでそう感じたのかという思考のプロセスにフォーカスします。「どういう時にそれを感じましたか」と聞くと、全然出てこないときがあるのです。「それは思い込みではないですか?
一対一ならば、「あなたはそれを問いかけた時に、『冷たくされたら怖い。だから相手はこう思っているに違いない』という仮説を立て、自分を守るために使っているのではないか」と指摘します。少し痛いかもしれませんが、うまいこと表現をして、「試してみましょうよ。手伝いますから」と言うのです。
倉重:それで手伝ってくれるなら、やってみましょうかとなりますね。当事者意識がない具体的なエピソードがあるのならば、その場できちんと言って注意をすればいいという話ですね。
澤:「なんとなくそんな気がする」というのは、だいたいどこにも確証がないのです。
倉重:一般社員の方にも、「経営目線を持てと言われても無理だよ」と言う人はいませんか。
澤:もちろんいます。それならば「会社に何のために入ったのですか?」という問いになるのです。「お給料のためです」と言ったとします。「お給料のためなら、もっとビジョンの高い連中に負けたときに文句が言えなくなるけれども、それでもいいのですか?」という話です。あるいは「転職をするときに、あなたにはバリューがない状態になりますが、それはリスクとは思わないのですか」ということがポイントになってきます。
倉重:いいですね、それは個人力の話につながります。
澤:「あなたのことをやる気もないのにずっと雇っていられるほど、会社がもうかり続けるとは僕には思えない」という話にもなるかもしれません。そこまでは言いませんが。
倉重:まさに今、個人のキャリア的な話も出てきました。組織にとってもそうですし、一個人にとっても終身雇用制が崩壊し、どうなるか分からない時代です。若い人に「どうサバイブするのか」という意識を伝えていますか。
澤:それはタグという言い方をします。タグはどんどん自分で作っていきます。かつ、言った者勝ちなので先に言ってしまい、どんどんリアルなものにしていく感じです。
倉重:この辺をやりたいですとか、興味がありますとかそういうことですか。
澤:タグなので最初から抽象度は高いのです。世界ナンバーワンでないとそのタグを名乗ってはならないというのは違うと思います。
倉重:確かに、世界に1人しか名乗れないわけではないですね。いろいろな本にも書かれていると思うのですが、なりたい自分の見つけ方、Beingが大事だというお話をされています。「そもそも自分がどう在りたいのかが分からない」という人は多いと思うのですが。
澤:これは自分が憧れている人や、好きな人がいないかをまず考えてみます。何でもいいです。人物でもいいですし、キャラクターでも構いません。そのキャラクターのどこが好きなのかということを細かく観察していってください。
倉重:自分にとってのヒーローは、必ずどこかの時代にいましたね。
澤:それを分解していくと、自分の在りたい姿のイメージに近くなってくるのかなと思います
倉重:確かにそれはすごく分かりやすいです。
(つづく)
対談協力:澤
(株)圓窓の代表取締役。
元・日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。マイクロソフトテクノロジーセンターのセンター長を2020年8月まで務めた。
DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングなどを行っている。
複数の会社の顧問や大学教員、Voicyパーソナリティなどの肩書を持ち、「複業」のロールモデルとしても情報発信している。