耳をかいたら携帯電話使用で取り締まられた! ながらスマホ運転、裁判で争った結果は!? | clicccar.com
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■誤認検挙を警察は絶対に認めない。しかし真っ向闘い、勝利した記録があった!
2019年12月1日、通称「ながら運転」、道路交通法的には「携帯電話使用等違反」が厳罰化された。
悪質な違反だから厳罰化するのであり、交通取り締まりは悪質な違反に重点をおくことになっている。当然、ながらスマホ運転の取り締まりは強化される。さっそくあちこちの県で「ながら運転」の一斉取り締まりが行なわれ、報道されている。
ながら運転の取り締まり方法は主に2種類だ。1、パトカーや白バイ、また交番勤務の警察官が違反現場に遭遇して取り締まる。2、チームで待ち伏せて取り締まる。具体的には、次々と進行してくるクルマを現認係の警察官が見張り、先で待機している警察官たちに無線連絡し、停止させて取り締まる。
チームで待ち伏せるタイプの取り締まりによって無実の「ながら運転」で違反切符を切られ、なんと見事に「勝利」した運転者がいる。ご報告しよう。
その日、A氏(40歳)はワンボックス車を運転してクリーニング店へ行った。それからコンビニへ向かう途中、対向車線で何やら取り締まりをやっているのを見た。コンビニでコーヒーを買い、忘れ物に気づいて引き返した。つまり取り締まり現場を通った。そのときA氏は、運転席左側のコンソールボックスにひじをつき、左耳をかいた。携帯電話は2台持っており、2台とも太めのジーンズの左右前ポケットに入れたままだった。ところが停止を命じられ、携帯電話使用で取り締まりを受けた。現認係の警察官が見誤ったらしい。通話履歴を調べてくれとA氏は何度も言った。が、警察官たちは相手にせず違反切符を切った。
A氏は納得いかず、反則金を納付しなかった。事件は検察庁へ送られた。いわゆる書類送検だ。検察官はあっさり不起訴とした。だが! 警察は違反点数(2点)を抹消しなかった。そのためA氏は次の免許更新で、5年間有効のゴールド免許を受けられず、3年間有効の免許とされた。
普通はあきらめてしまうだろう。しかしA氏はあきらめず、要するに「3年免許の交付処分を取り消してゴールド免許を交付せよ」という民事の裁判を起こした。その裁判はさいたま地裁でおこなわれた。私はA氏から連絡を受け、傍聴した。
原告席にはラフな服装の男性がぽつんと1人。それがA氏だった。代理人弁護士なしの「本人訴訟」なのだ。被告は、実質は警察だが裁判上は埼玉県。その代理人弁護士が4人と、県警および県庁の訟務担当職員が11人、総勢15人だ。素人1人vs専門家15人、うわぁ、A氏は手もなくひねられるのか。私は正直そう思った。
1人目の証人は、現認係の巡査だった。要旨こんな証言をした。「交通取り締まりを約5年間、週に3~4回、月に15回くらいやってきた。本件当日、原告(A氏)がワンボックス車を運転しながら左の耳に携帯電話を当てているのを、まずフロントガラス越しに、続いて助手席側の窓ガラス越しに、はっきり現認した。そのとき原告は、口は動かしていなかった」「口は動かしていなかった」とかリアルだ。
2人めの証人はN警部補。現場責任者だ。軍隊調できっぱりこう言い切った。「原告は最初から携帯電話使用を否認していた。しかし通話履歴は調べず、事後の捜査もまったくしていない」現認係が「見た!」と言いさえすれば違反は成立する、そう思い込んでいることが明らかだった。
次にA氏が証言台の椅子に座った。原告本人尋問である。尋問をおこなった被告代理人弁護士は、元検事だった。いわゆる「ヤメ検」だ。ヤメ検弁護士は、でっかいしゃがれ声で、早口でわめくように次々と尋問をぶつけた。まさに取り調べ室で被疑者をいたぶるような調子だ。しかもその内容がぶっ飛んでいた。「耳をかきながら現認係の横をとおったら、ケータイかけてると間違われると、思わなかったんですかっ! 誤解されるとは思わなかったんですかっ!」耳をかく行為を携帯電話使用と誤認するのは当たり前、A氏のほうが悪いと言わんばかりだ。A氏は困ったように答えた。「(現認係が)きちんと見てれば…」さらに、停止係から命じられてA氏が停止したことについて、ヤメ検弁護士は早口でこうまくしたてた。「そこで停まって大丈夫なんですかっ。後続車に迷惑かからないんですか、大丈夫なんですかっ!」停止係は迷惑な場所で停止を命じ、だから停止してはいけなかったと?
「無実の違反で取り締まりを受けた。運転免許の行政処分(本件は3年免許の交付処分)を取り消せ」という裁判を私はたくさん傍聴してきた。運転者の側はまず勝てない。警察官が証人出廷して「確かに違反を現認した」と言えば、裁判所はそのまま信じる。裁判とはそういうものなのだと私は感じ続けてきた。本件も、内容的にはA氏の勝ちと思えるが、しかしこれは裁判だ。どうなるのだろう…。
そして判決。なんとA氏は勝った! 3年免許の交付処分は取り消し「優良運転者である旨を記載した運転免許証を交付せよ」とされたのだ。警察官らの証言も捜査報告書等も「信用性に乏しく、採用することができない」「原告が本件道路において携帯電話を通話のために使用したと認めるに足りる的確な証拠はない」とさいたま地裁は判断したのである。専門家15人に素人1人で立ち向かい、勝ってしまうとは。私は感動した。
被告側は東京高裁へ控訴した。たっぷりの書類を出し、A氏勝訴の判決の破棄を求めた。対するA氏は高裁でも代理人弁護士をつけず、A4サイズ1枚の紙に半分ほど「私は本当に違反していない。ゆえに警察側は違反を立証できるはずがない。こんな裁判は早く終えてほしい」という趣旨を書いて出したのみだった。高裁は被告側の控訴をあっさり棄却した。被告側は上告を断念し、A氏の勝訴が確定した。
この裁判からようく分かることがある。それは、「ながらスマホ」の取り締まりは現認を誤ることもあり、誤っても警察側は認めず、徹底的に抵抗するということだ。誰もがA氏のように勝てるとは限らない。運転席も録画できるドライブレコーダーは必須といえるだろう。
(今井亮一)
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