〝真の5G〟と言われる「5G SA」の登場で何がどう変わる?|@DIME アットダイム
■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は5G専用の設備だけでサービスを提供する「5G SA(スタンドアローン)」について話し合っていきます。
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5G SAでも高速にならない!?
房野氏:5G専用の設備だけでサービスを提供する「5G SA」の商用サービスが、とうとうスタートし始めましたね。ソフトバンクが去年、2021年の10月に、SoftBank Airの新機種で5Gに対応した「Airターミナル5」の発売に合わせて国内で初めて開始し、ドコモは12月に法人向けにサービスを開始しています。KDDIは、商用環境での5G SAの通信試験を2021年9月から開始しています。
SoftBank Air
房野氏
石川氏:先日「docomo Open House'22」という、ドコモの技術を展示するイベントがありまして、その時に5G SAのデモもあったんですよ。ドコモは去年の12月に法人向けをスタートし、今夏には一般向けにも導入し、対応スマートフォンも出すという話があります。Open Houseの展示デモでやっていたのは、インターネット上のバーチャルYouTuberのライブで、5G SAでスライシングを利用したものだと画像が滑らかで、遅延もブロックノイズもなくてきれいだよねと。でも、スライシングがないと、これだけ遅延が発生するという風に説明されていて、確かに違いはあるなぁと思うけど、「あ、そうか」みたいな……
石川氏
石野氏:ディスプレイがかなり大きくないと、わからないレベル。
石野氏
石川氏:そうそう。
房野氏:えー、スライシングについて、軽く説明をお願いします。
石川氏:スライシングは、用途に合わせてネットワークを輪切りにするというか、1つのネットワークの中で、様々な用途向けにネットワークの性質を変えることができるという技術です。大容量で安定したネットワークを使いたい人向けにはそういうネットワークを提供するし、「いやいや、ウチは高品質、低遅延で提供したい」っていうところには、それ用のネットワークを提供できる形になる。5G SAになってスライシングができると、いろんな用途が広がる。「真の5G」とも言われていて、5Gらしいネットワークになると言われています。Open Houseでドコモとしては「スライシングをすると、安定してYouTuberのライブが見られますよ」という風に説明していたんですけど、じゃあ、あれがビジネスとして成立するかというと、結構微妙かなと自分としては思いました。スライシングのネットワークを導入する事業者が必要なんでしょうけど、当然、ユーザー側もスライシングに対応したスマートフォンが必要で、スライシングに対応したネットワーク内にいなきゃいけない。そういったコストを払ってでも見たい品質になっているかというと、結構、微妙だなぁと思いました。
房野氏:スライシング対応端末はもうあるのでしょうか。
石川氏:Wi-Fiルーターが法人向けにあります。スマホは今年の夏に出てくると言われています。
房野氏:スマホはまだないんですね。
石野氏:iPhoneとかは規格の上では5G SAに対応している感じですね。アップデートすれば使えるようになる端末もあるんじゃないかな、という感じです。石川さんがおっしゃっていたように、SAは4Gを使わず、低遅延で、多端末接続ができて、これが真の5Gだ! って言われていたんですけど、ドコモがサービス開始時に挙げてきた事例が「それ、SAじゃなくてもよくないですか?」という感じのものが結構含まれていて(笑)。TBSのテレビ中継とか、「それは普通の5Gでもできますよね」とか。
石川氏:あるいは、ケーブルでいいじゃない、とか。
石野氏:あと、エヴァンゲリオンを制作している会社ですが、そこのクリエイターが使うリモートワーク端末で、SA経由でMEC(Multi-access Edge Computing)のソフトウエアを動かして、PC上のソフトウエアなしでアニメの制作ができるようにするという話もありました。確かにそれにはSAが必要ではあるんですけど、それをやろうとすると、クリエイター1人1人の自宅を5Gエリアにしないといけない。その手間とコストを本当にかけられますか? って思いました。
房野氏:5G SAって高速大容量と言われていますよね? 目標数値とかあるのでしょうか。
石川氏:5G SAになったら高速化しますよと言われているんですけど、現状はNSA(Non-StandAlone)、4Gと5Gをくっつけた方が速いんですよ。
房野氏:そうなんですか。
石野氏:現状は最高速度が落ちているんですよ。
石川氏:「4Gと5Gを運用した方が、まだ速いよね」っていうことになっているので、5G SAって言っても、なかなかスピードのアピールができない。
法林氏:以前も言ったと思うけれど、通信速度を上げてある程度のレベルに行くと、体感ではわからなくなる。だから、5G SAじゃなきゃいけないという用途を作るのが結構、難しい。「とりあえず、5G NSAでよくないですか?」といわれ、そのうち気がついたら時代はSAになっていました、ということになるかなという感じ。だから「SA対応端末が夏に出るから、今は買い控えよう」というのは、全然意味がない。
法林氏
5G SAになって料金は変わる?
房野氏:5G SAの利用料金が新たに出るでしょうか。
法林氏:現状では、一応、法人向けにスライシングして売りましょうというのは、たぶん別料金だと思いますが、一般ユーザーは関係ないと思いますね。
房野氏:現在の5Gと同じように売られると。
法林氏:現状では、たぶん切り分けようがないと思うので。
石野氏:NSAとSAはコアネットワークで分けてるから、SIMカードは変わるかもしれないですけど……
法林氏:そんなに大げさにはやらないと思いますよ。
石川氏:料金の差別化は難しいです。5G SA料金を提案しても「エリアがないじゃん」って話になってくると厳しい。2020年に5Gを導入する時、各キャリアとも5Gのオプション料金1000円を取ろうとしましたよね。あれもキャリアとしては取りたかったけど、当時の菅総理大臣の発言で値下げの機運が高まっていたので取れなくなったってこともある。その延長線上で、5G SAだから1000円を取るってことは、たぶん、できないだろうなという気がします。
石野氏:あと、ドコモのネットワークの場合だと転用のエリアがないので、相変わらず〝パケ止まり〟をするわけですよ。
法林氏:あるよね。
石野氏:先日も2回ぐらいパケ止まりして、コード決済アプリが起動しなかったりした。今は「早めに4Gに切り替えてます」みたいなことを言っていますけど、SAでコンシューマ端末が出ちゃうと、パケ止まりした時に逃がし先がなくなる。そうすると、また4Gに繋ぎ直してとか……。
石川氏:今は4Gと5Gが混在しているので、端末が「どっちにつながればいいんだろう」と迷っちゃってパケ止まっちゃう。全て5Gのネットワークになれば、そういったことはなくなるという話なんですけども、そうはいかないよねと。まだまだ4Gユーザーがたくさんいるよねってことになっているので。
法林氏:まだ3Gユーザーだっているわけですからね、そんな簡単な話じゃないですよ。だから、5G SAのために一般消費者があれこれ動く必要はないと思います。
石野氏:コンシューマはそうですね。だから5G SAは法人向けに始めたっていう感じではあるんですけど、法人向けも本当にどこまで行くのかなってちょっと感じます。
ローカル5Gとプライベート5G
法林氏:法人の場合は、よく事例として出てくるけど、工場のオートメーション化で、ロボットを動かすのにSAでやる話とか、監視カメラとかの話がある。これはわかる。有線でつなげないようなケースですね。Wi-FiだとWi-Fiそのもののスピードやチャンネル数の限界がある。また、セキュリティのリスクもそれなりにあるので、だったらモバイルネットワークでつなぎましょう、じゃあ、そこはローカル5Gも含めて提供しましょう、みたいな感じ。「じゃあドコモさんのSAで工場の中を管理します」という話はあり得ると思います。ドコモはその場合、可能な限り基地局を建ててサービスを提供しますという話になるのかと思います。
房野氏:SAだと電波が届きやすくなるのでしょうか。
法林氏:それは使う周波数によります。ほかの通信手段よりも、有効な場合に生きてくる話。例えばすごい身近な例で、BluetoothとWi-Fi、5G SAがある場合、Bluetoothは距離が飛ばないし、スピードも出ない。マルチポイントにすれば一定の台数はつながるけど、100台、200台つないでってわけにはいきません。Wi-Fiは、速度はそこそこ出るけれど、2.4GHz帯はチャンネル数が限られる。2.4GHz帯は事実上、業務では使えないバンドになっている。5GHz帯だとそこそこスピードは出る。チャンネル数もそれなりに多い。でもロボットを1000台コントロールしてくださいとなると、多分、難しい。これがローカル5Gだとできる。チャンネル数もあるし、時間で分けることもできるし、いろんなコントロールができる。ましてやローカル5Gで〝ウチの専用回線〟みたいな形になれば、より整備はしやすいし、元々モバイルネットワーク自体、秘匿性が高いので、データを盗まれる可能性は少ない。これはごく身近な3つですけれども、そのメリットを感じれば導入するでしょう。例えば、造船所の中を全部5Gエリア化して、ロボットで1週間に1台、巨大な船を作ります、みたいな話になった時には、もしかしたら5Gだから早くできた、SAだから早くできた、ということはあると思います。そういう世界の話。
石野氏:ローカル5GにおけるSAは、確かにメリットがあると思います。LTE、4Gがいらなくなるので、シンプルになって工場とかでも動きやすくなるというのはわかるんですけど、キャリアが全国展開するネットワークとして、果たしてどこまで有用性があるんだろうなというのは、ちょっとまだ見えないというか。
石川氏:ローカル5Gというかプライベート5Gというか……ローカル5Gは富士通とかが作っていて、キャリアが持っている電波とは異なる周波数帯で提供するのがローカル5Gです。一方、ドコモやauがやろうとしてるのはプライベート5Gで、彼らが持っている周波数帯で、スライシングで企業向けに限定的に使えるものとしてやろうとしている。そういったネットワークだと、例えば工場で作ったものに5Gのチップが載っていたら、どこか別の場所に移した時も、常に5Gのネットワークでトラッキングして場所を追いかけることができる。そういった、かなりニッチなやり方だと、プライベート5Gの工場で作ったものに対して管理できると思うので、用途に応じてネットワークを使い分けていくって感じになる。その中での1つの方法という感じ。
石野氏:コンシューマ向けはどういう算出をするのかな……
法林氏:だから、コンシューマ的には気にしなくていいと思う。もちろん、端末は夏以降、変わるタイミングが来るけれども、だからといってそれを待つとか、それが出てから買うとかはしなくていい。一部のマニアは気にすると思うけど、普通の人にとっては「SAだからこうなります」的なものは今のところ提供されていないし、アナウンスされていない。
石川氏:docomo Open House'22でもメタバースだといわれてて、人の動きを読み取って、ウルトラマンと怪獣がその通りに動いて戦う映像が展示されていました。リアルタイムに人の動きをキャプチャしていて、それをCGに起こしてメタバースで動いているのが見られるんですけど、見たら3、4秒ずれているんですよ。でも、ドコモはそれをリアルタイムと言っていて、話を聞くと、画像処理をするために、どうしても遅延が発生すると。なので、どんなにネットワークが速くても、そういった映像処理する部分で遅延が発生するので、なかなか厳しいなと。
房野氏:ローカル5Gの周波数というのは……
石川氏:キャリアに与えられた周波数帯とは別に、ローカル5G用の周波数帯がある。
房野氏:免許はどういう風に与えられるのでしょうか。
法林氏:ローカル5Gの事業を展開するところに与えられる。
石野氏:例えばNECとか富士通とかもローカル5Gの周波数の免許を取っていて、それは「特定のクライアントのために、限られたエリアを作るために使っていいですよ」という風に割り当てられています。大手キャリアはそうじゃなくて、「パブリックに広くやりなさい」というような免許なので、キャリアのやるプライベート5Gは、あくまで一般用に設置した基地局の一部を使って工場とかをエリア化する。
法林氏:5Gのみでつながるクローズドなネットワークを、例えばドコモだったらドコモのネットワークの中に、個別に作る。
房野氏:VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)みたいな感じですか?
法林氏:うーん……まぁ、でもそれに近いかな。クローズドなネットワークを作って、それがもしかしたら時間で区切られているかもしれない。9時から5時までだけ使えるネットワークとか夜間だけ使えるネットワークとかもある。例えば、これはコンシューマに関係あるかもしれないけど「鹿島スタジアムの中だけで使えます」みたいなこともできる。
房野氏:キャリアは今持っている免許で、そんなことができるんですね。
法林氏:包括免許の中に入っている。キャリアさんに与えられているのは基本的に包括免許なので、それをどう切り売りするかは自由です。
石川君が説明した通り、ローカル5Gと、キャリアがスライシングして切り売りするものと、5Gのネットワークとして技術は同じなんだけど、周波数が違うし、それぞれ使用目的とその免許をもらう人も違う。キャリア側は基本的には汎用の端末で、免許を包括で受けている。その包括の免許の中に、よく絡んでくるのが例の技適の話。技適なしでいいっていう話にならないのは、まさにそこなんですけどね。
石川氏:キャリアが提供している5Gは「パブリック5G」と言われています。5Gを全国に提供している中で、限られた場所の企業に向けて、ちょっとそこを切り売りしてプライベート5Gとして提供します。そうすることで、ローカル5Gで商売してる人たちを追い出すというか。というわけで、キャリアはプライベート5Gをやりますよと言っています。
石野氏:コアネットワークとかはパブリック、プライベートとも全部共有だと思います。
房野氏:キャリアがプライベート5Gを提供する狙いというのは?
石川氏:企業向けに5Gのサービス提供しようとしているローカル5G事業者に、企業のお客さんを取られたくないので……
石野氏:そこに対抗するため。
石川氏:企業が契約してくれたら、毎月いくらかお金が入る。例えば、企業に対して5Gサービスを提供するとして、キャリアが提供すれば毎月お金が入ってくる。
法林氏:会社の中の電話サービスに例えると、わかりやすいかも。企業に勤めている人たちが全員、ローカル5Gを契約するのか、プライベート5Gのドコモ5Gを契約するのか。ドコモ5Gだったら「こういう形の料金で法人契約できますよ」となる。でも、社内でしか使えない「ローカル5G」というサービスがあって、担当者が売り込みに来たと。その場合は個別契約じゃなくて、自分のネットワークのキャパシティに応じて「ウチは1000回線までは○○円です」みたいな売り方もできるわけです。ローカル5Gに別個に周波数が割り当てられているメリットはそこにある。キャリアの場合は、企業の周りにはほかの企業のビルも店舗もあるわけなので、「御社にドコモ5Gとして提供できるのは、これぐらいの帯域です」みたいに話になっちゃう。実際は電話機のサービスよりも、スタジアムとか工場とか、そういうエリアの話になってくると思います。
石野氏:あと、ローカル5Gのコストが安くなりそうだっていうのもありますよね。
石川氏:ローカル5Gを考える場合、もしかしたら月々の料金はものすごく安いかもしれないけど、一方で設備を入れなくてはいけない。一企業がローカル5Gを導入しようと思ったら、その会社に基地局を設置して、目の前にアンテナを立てて、ということをやるので、その初期投資をどうするか。初期投資を分割して、月々の料金に足して払っていくとして、各企業、ローカル5Gを導入しようと思っても二の足を踏む。一方、キャリアが提供するプライベート5Gだと、機器はキャリアが持つし、キャリアは色々調達しているので、そこの安い機材を入れられる。端末についても、一般に売っているシャープのルーターを転売すれば安くなる。ローカル5Gとプライベート5Gのどっちがいいのか、導入する企業も考えます。
石野氏:MVNOがローカル5Gをやろうとしていますね。
法林氏:マンションにローカル5Gを提供するところがあったよね。
石野氏:ソニーですね。子会社のソニーワイヤレスコミュニケーションズの「NURO Wireless 5G」。あれをキャリアがやろうとするとできない。
法林氏:あれは、やり方としてはアリ。
石川氏:初めてローカル5Gで、「これ、行けるかも」って思える案件でしたね。
石野氏:あのやり方は、かなり賢いと思うんですよね。賢いけど、ほかはなかなかできないのかな。
……続く!
次回は、キャリアメール持ち運びについて、会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘文/房野麻子