機種横並び、料金チキンレースしかなくなった日本の携帯キャリア事情 | nippon.com
携帯大手3社「同質化」でキャッシュバック競争に
2013年9月に携帯電話国内最大手であるNTTドコモが米アップルのiPhoneを取り扱い始めて以降、携帯大手3キャリア(通信事業者)の「同質化」が鮮明となった。
大手3社の中でiPhoneを唯一扱っていなかったNTTドコモがiPhoneを売り始めたことで、2013年11月~2014年1月販売分ではiPhoneが68.7%のシェア(カンター・ジャパン調べ)を占める日本のスマートフォン市場においては、ユーザーが端末ラインアップを基準にキャリアを選ぶことがなくなりつつあるのだ。料金プランについては3社ほぼ横並び、ネットワーク品質も一般人には違いが分かりにくい中で、ユーザーから見て「どこを選んでも一緒」という各キャリアが恐れていた状況に陥ってしまった。
その状況下で勃発したのが「キャッシュバック(現金還元)競争」だ。各キャリアとも、MNP(携帯電話番号ポータビリティー制度)で他社から乗り換えて新規契約してくれたユーザーに対し、数万円規模のキャッシュバックを実施。一時期、キャッシュバックの金額は1台あたり7万円以上にも拡大した。ユーザーの中には、家族全員で同じキャリアにMNPを行って「キャッシュバックでもらった現金で家族旅行にいった」という人やキャッシュバックだけで生活費を稼ぐという人もいたほどだ。
各社とも、キャッシュバックは財務状況を悪化させるだけなので、できるだけやりたくないというのが本心。しかし、競合他社がやっている以上、自社だけ辞めるというわけにもいかない。実際にキャッシュバックを実施すれば、それだけ新規契約が獲得できてしまう「劇薬」だっただけに、辞めたくても辞められないという事情があった。
ユーザーの視点から見ると、キャッシュバックは新規に契約する人にとっては現金がもらえる魅力的な施策であるが、長期間同じキャリアを契約している人にとっては何のメリットもない。キャッシュバックが盛り上がれば盛り上がるほど、長期利用者からの不満が噴出していた。
そうした中で2014年3月に、総務省が携帯各社にキャッシュバックをやめるよう「指導した」との情報がネット上に流れた。この「総務省による指導」とのうわさを受けて、「3社同時なら辞められる」とキャリアや販売店の間で自制ムードが広がり、何とかキャッシュバック競争は終焉を迎えた。
通話し放題で先駆けたNTTドコモ
キャッシュバック競争の終息を機に動き出したのがNTTドコモだ。
同社は4月10日、月額2700円でスマホの国内固定・携帯電話宛ての音声通話料が定額となる「カケホーダイ」という新料金プランを6月1日から導入することを発表した(従来型携帯電話は月額2200円)。新料金プランでは、データ通信においては家族でパケット量を分け合える仕組みを導入。さらに長期利用ユーザーに向けた料金値引きも盛り込んだ。NTTドコモのユーザーには、携帯電話初期のころから利用している人も多く、「家族全員でドコモ」という家庭も多い。そこで、長期利用者と家族に優しい新料金プランを作ったのだった。
NTTドコモは2013年9月にiPhoneを導入したものの、これまで劣勢だった契約者獲得競争で巻き返しを図ることができず、苦戦を強いられていた。NTTドコモとしては満を持して投入したiPhoneの販売が不発だったこともあり、起死回生とばかりに、これまで国内ではあり得なかった「音声通話の完全定額制」を導入してきた。
NTTドコモの新料金プランが業界に与えるインパクトは大きかった。実際、5月15日に新料金プランの予約受付が始まるやいなや、ドコモショップには料金プラン変更を申し込むユーザーが殺到。週末には受付するだけで3時間待ちという大混雑となった。特に、通話を頻繁に行う若者や法人ユーザーなどの反応が良く、他キャリアの契約者もNTTドコモに流出するという状況になった。
月額2700円の新料金プランは、電話を多くするユーザーからすれば値下げとなるが、「普段電話をあまりしない」という人からすると「値上げ」となる。NTTドコモとしても、電話を多くするユーザーだけが新料金プランに乗り換えるようでは、収益面ではマイナスに作用する。そのため、いかに契約者全員が月額2700円のプランを契約するかが、経営上の課題となる。今のところ、新料金プラン受け付け開始から50日ほどで500万契約を突破するなど順調に推移しており、NTTドコモの計画通りに進んでいるようだ。
ソフトバンクとKDDIも追随
一方、NTTドコモに足元を救われたのが、業界2位のKDDIと3位のソフトバンクモバイルだ。両社とも黙って指をくわえて見ている訳にはいかず、NTTドコモへの対抗プランを発表。ユーザーの流出食い止めに必死となっている。
KDDI・田中孝司社長のもとには同社の営業部隊から「NTTドコモの新料金プランの影響が大きい。何とか対抗策を急いでくれ」と懇願があったようだ。KDDIでは音声通話を高速データ通信「LTE」のネットワーク上に流す「VoLTE(ボルテ=Voice over LTE)」の開始に合わせて、2014年12月ごろに音声定額プランの導入を予定していたが、NTTドコモの影響が大きすぎたため、8月開始に前倒しせざるを得なかった。
ソフトバンクモバイルは、2014年1月に新料金プランを発表していた。「VoLTE時代を先取りした革新的な料金プラン」と題し、1回5分以内、月1000回まで定額で音声通話ができるというもので、7ギガバイトまでのデータ通信と合わせたプランでは月6980円という料金だった。発表後、ユーザーやネットメディアから「高い」という指摘を受け、4月1日に料金プランを改定するも、NTTドコモが「完全定額制」を導入したことで、新料金プランを撤回。6月7日にNTTドコモとほぼ横並びの料金プランを7月から導入することを発表するに至った。
NTTドコモ 「カケホーダイ&パケあえる」 | KDDI 「カケホとデジラ」 | ソフトバンク 「スマ放題」 | |
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新料金プラン開始日 | 2014年6月1日 | 2014年8月13日 | 2014年7月1日 |
音声通話 (国内通話し放題) | 2700円 | 2700円 | 2700円 |
インターネット接続基本料 | 300円 | 300円 | 300円 |
データ通信 2GB(ギガバイト) | 3500円 | 3500円 | 3500円 |
3GB | ― | 4200円 | ― |
5GB | 5000円 | 5000円 | 5000円 |
8GB | ― | 6800円 | ― |
10GB | 9500円 | 8000円 | 9500円 |
13GB | ― | 9800円 | ― |
15GB | 12500円 | ― | 12500円 |
20GB | 16000円 | ― | 16000円 |
30GB | 22500円 | ― | 22500円 |
金額は消費税別、2014年7月15日現在
プライスリーダーはソフトバンクからドコモへ
もともとソフトバンクモバイルは他社よりも先駆けて新料金プランを発表することで、他社にソフトバンクと同じ料金体系に追随させるつもりだった。自社に有利な料金設定に3社が横並びになれば、自社に都合の良い儲け方ができるからだ。現状のソフトバンクモバイルは、日本で稼いで、その資金で同社が買収した米国のスプリントを立て直す、という事業構造になっている。そのため、日本では他社との料金競争を避けて、できるだけ儲かる構図にしておかなくてはいけない。
米国携帯業界3位のスプリントを再建するには、スプリント単体では難しく、4位のキャリアであるT-Mobile USを買収しないと「(米国2強の)AT&Tやベライゾンと対抗できない」(ソフトバンク孫正義社長)という。当然、仮にT-Mobile USを買収でき、2社を統合したとしても、当面は厳しい状態が続くのは間違いない。
ソフトバンクは、営業利益で1兆円を超え、NTTドコモを逆転したものの、有利子負債は9兆円を超えている。スプリントを立て直すために「日本国内は確実に儲かる構図」にしたくて、他社に先駆けて新料金を発表したにもかかわらず、NTTドコモが追随するどころが、全く異なる切り口で、ソフトバンクとKDDIを圧倒してしまったのだ。
2006年にソフトバンクがボーダフォン日本法人を買収して以降、基本料月額980円の「ホワイトプラン」やiPhoneの独占販売など、日本の携帯通信業界は孫社長のソフトバンクが中心に回っていた。しかし、2011年からiPhoneを扱い始めたKDDIが、光ファイバーやケーブルテレビの固定通信サービスとスマホをセットで割引する「スマートバリュー」を2012年に投入し、自社保有の家庭向け光回線を持たないソフトバンクに対抗。さらに2014年にNTTドコモが通話完全定額制を導入したことで、現状の業界のプライスリーダーはNTTドコモになった感がある。
しかも、2014年秋には、これまで国が禁止してきたNTTドコモとNTT東日本・西日本の光回線のセット割引が始まるとされている(NTTドコモの加藤薫社長は6月19日の株主総会でセット割引開始の方針を表明済み)。NTT東西の光回線は圧倒的なシェアを持つことから、再びNTTグループの影響力が強まりそうな予感がある。
MVNO普及で競争は盛り上がるか
大手3社が通話定額制導入で事実上の値上げに踏み切る中、勢いを見せているのが、大手各社から借りた回線で安価な通信サービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)だ。端末代と通信費が込みで月額2000〜3000円程度とあって、人気になりつつある。
そのブームを作ったのが流通大手のイオンだ。これまで「スマホには興味があるが、通信費が高くて躊躇してきた」というシニア層に受け、4月に売り出した格安スマホは限定8000台があっという間に完売となった。イオンが格安スマホでブームを巻き起こしたことで、大手ISP(インターネット接続事業者)や光回線事業者なども格安スマホの販売促進に力を入れている。
そんな中、総務省に設置された有識者検討会は、携帯端末の他社回線での利用を制限する「SIMロック」の解除を2015年度にも携帯キャリアに義務化するという方針を明らかにした。これはMVNOに有利に働くとみられている。
現状、日本の携帯キャリアはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクグループの3グループ体制であり、競争が起きにくいとされている。過去には4社目としてADSL(非対称デジタル加入者線)事業者のイー・アクセスも参入したが、同社は2013年にソフトバンクに買収されグループの中に入ってしまった。総務省としては、3社体制を快く思っておらず、MVNOを普及させ、SIMロック解除を義務化することで、競争環境を盛り上げようとしているようだ。
アメリカでは大手4社体制に、数多くのMVNOが乱立し、消費者には「選ぶ自由」が存在する。日本でも、どこまでMVNOがユーザーに支持されるかが、今後の注目となっていきそうだ。
(タイトル写真=音声通話定額制の新料金プランを発表するNTTドコモの加藤薫社長[2014年4月10日])
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