Engadget Logo エンガジェット日本版 2021年に勃発した携帯料金引き下げ合戦、結局誰が勝ったのか(佐野正弘)
2021年ももうすぐ終わろうとしていますが、この1年、携帯電話業界で最も注目されたのは、やはり9月まで内閣総理大臣を務めていた菅義偉氏の肝いり政策でもあった、料金引き下げに関する動向ではないでしょうか。そこで改めて2021年の携帯電話料金を巡る各社の競争施策を振り返ってみたいと思います。
2021年の初頭、大きな注目を集めていたのは携帯各社のオンライン専用プランだったことに間違いないでしょう。2020年末にNTTドコモが税抜きで月額2980円(当時)で、20GBのデータ通信と5分間の音声通話定額が利用できる「ahamo」を発表して大きなインパクトを与えたことから、年が明けた2021年に入り他社が相次いでahamo対抗プランを打ち出しました。
KDDIは必要に応じてオプションを適用できる「povo」、ソフトバンクは後に傘下となったLINEと連携した「LINEMO」を発表。いずれも20GBの通信量が利用できるなどahamoを強く意識した内容である一方、ニーズが低いとされた5分間の音声通話定額をオプションにして税込みで月額3000円を切る価格を実現。それに応じる形でahamoがサービス開始前から料金を月額2980円に引き下げるなど、激しいつばぜり合いがなされていたのを覚えています。
ですが、オンライン専用プランを巡る各社の明暗は比較的早い段階で現れました。ahamoが4月末時点で100万を超える契約を獲得、11月には200万契約を超えるなど好調ですが、povoは10月末時点でその半分となる約100万契約。LINEMOに至っては8月時点で50万に届かない契約数とされ、その後単体での契約数が公表されなくなっています。
ですが好調とされるahamoでさえ、100万契約を超えた後の伸びはかなり鈍化している印象です。ahamo発表時のフィーバーぶりを考えると契約数がそこまで伸びなかったのには不思議な印象もありますが、その理由はオンライン専用プランの特性にあるといえます。
ahamoなどは元々若い世代をターゲットとしていたため、若い世代の利用が多いSNSでは大いにバズり、注目されるに至りました。ですがそれ以外、特にスマートフォンに詳しくない年配層からしてみれば、店頭でのサポートがほぼなく敷居が高いことから食いつきが弱く、幅広い層に広がらなかったことが伸びにつながらなかった要因と筆者は考えます。
それゆえかKDDIとソフトバンクは2021年の途中からahamoへの追従を止めています。実際KDDIは「povo 2.0」で月額0円、かつ必要な通信量をトッピングする仕組みへと変更して、後述する楽天モバイルへの対抗プランへと舵を切りました。また、ソフトバンクは、LINEMOに通信量3GBで月額990円の「ミニプラン」を追加し、MVNOとして展開していた「LINEモバイル」利用者の取り込みに力を注いでいます。
では、その2社が何に力を入れたのかといいますと、サブブランドの「UQ mobile」「ワイモバイル」です。実際ソフトバンクはワイモバイルの獲得がかなり好調な様子で、低価格サービスはワイモバイルを主軸にすると宣言したくらい、サブブランド重視の姿勢を見せています。
よりサブブランドへの力の入れ具合を感じさせたのがKDDIです。2021年前半は同社のテレビCMの大半をUQ mobileのアピールに費やしていた印象で、povoどころかauさえどこに行ったのか? という感じさせる程の力の入れ具合には驚かされました。
もう1つ、UQ mobileへの力の入れ具合を示したのが、6月にサービスを開始した「でんきセット割」。指定の電力サービスを契約すれば、最も安いプランで月額1000円を切る価格を実現できるだけでなく、従来こうした割引サービスの蚊帳の外に置かれていた単身者にも割引を適用できることが評判を呼び、9月には対象を固定ブロードバンドにも広げた「自宅セット割」へと進化させ強化を図っています。
一方NTTドコモは、ahamoで若い世代の流出をある程度阻止できたとはいえ、より幅広い年齢層をターゲットにしたサブブランドには対抗しきれておらず、追加の料金施策が求められていました。そこで打ち出されたのが「エコノミーMVNO」で、NTTドコモがネットワークを貸しているMVNOと連携して低価格帯をカバーする動きに出ています。
実際エコノミーMVNOとしていち早く連携を開始したNTTコミュニケーションズの「OCN モバイル ONE」は、ここ最近ドコモショップで契約できることをアピールするテレビCMなどで積極展開、力を入れている様子がうかがえます。ただエコノミーMVNOはNTTドコモに契約が残らず収益面でのメリットが低い上、肝心のMVNOからあまり支持を得られておらず連携MVNOが2社にとどまるなど課題も多く、サブブランドにどこまで対抗できるかは未知数です。
もう1つ、契約者数で躍進したのは楽天モバイルでしょう。2020年末時点で楽天モバイルが提供していたのは月額3278円で使い放題の定額プラン「Rakuten UN-LIMIT V」でしたが、使い放題ではないものの同水準の料金でそこそこの大容量、なおかつエリアが圧倒的に広いahamoの登場で一気に危機に立たされることとなりました。
そこで2021年、楽天モバイルが起死回生の策として打ち出したのが「Rakuten UN-LIMIT VI」で、通信量が1GBまでであれば月額0円で利用できるという思い切った料金施策で大きな話題となりました。これが評判を呼び、9月末時点で411万契約を獲得するなど契約数は順調に伸びましたが、その分通信料収入の見込みを立てにくくなってしまったといえます。
そこで楽天モバイルは、楽天グループのサービスとのシナジー向上や、同社の売りでもある完全仮想化ネットワークの外販を進めることなど複数の手段で売上を伸ばそうとしているようです。
ですが2021年には楽天モバイルへの先行投資で楽天グループ全体での赤字が拡大し、日本郵政などから大規模資金調達に至ったのに加え、エリア整備に関しても半導体不足が直撃するなど、不安要素がかなり目立ったというのも正直な所です。
MVNOの将来には暗雲も
一方、これら4社の競争の割を食ったのはMVNOでしょう。実際、MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会MVNO委員会は2021年に入って早々に、ahamoに対抗できないとして緊急措置を求める要望書を総務省に提出。携帯大手が低価格の領域に進出してきたことへの強い危機感を示していました。
もちろんMVNOには2021年、専用アプリを使わずに安価な音声通話サービスを提供できる仕組みの提供や、SIMロックの原則禁止措置、キャリアメールの持ち運びサービスの提供など、総務省の公正競争促進策によっててプラスとなる材料も多く出てきていますし、それを取り入れたサービスが各社から相次いで投入されたのも確かです。
ですが大手3社が低価格サービスに力を入れたことでMVNOに流れるユーザーが減少したのに加え、従来MVNOを選んでいたリテラシーの高い先進層が“0円”を求めて楽天モバイルなどに流れてしまっているのが現状です。低価格競争の激化で非常に厳しい立場となり、MVNO全体の将来に暗雲が立ち込めてしまった感は否めないでしょう。
無論大手3社も料金引き下げで業績を大きく悪化させている訳で、そう考えると2021年の料金引き下げ合戦は勝者不在というのが正直な所です。あえて言うならば料金引き下げを実現した菅前政権が勝者なのでしょうが、その菅前政権も東北新社やNTTらによる総務省幹部への高額接待問題に揺れ、その後も新型コロナウイルスへの対応や東京五輪の開催を巡って支持を大きく落とした結果、退任へと至っています。
従って一連の料金引き下げは誰も得をせず疲弊だけを招いた焦土戦となり、今後一層積極的な投資が求められる5G、6Gに向けた取り組みに不安をもたらしただけなのでは……というのが筆者の正直な感想です。2022年は新たに首相に就任した岸田文雄氏の政権下で、その不安を払しょくできるのかが注目される所です。