Engadget Logo エンガジェット日本版 楽天モバイル契約者数500万の真相 願わくば「実契約者数で開示してほしい」(石野純也)
楽天モバイルが、契約者数500万を突破したことを発表しました。ただし、注意したいのは、この数字には新規申し込みを終了しているMVNOの楽天モバイルが合算されていること。自身で基地局などの設備を運用するMNOとしての楽天モバイルだけに絞ると、数字はこれよりも小さくなります。MNOとMVNOでは収益構造がまったく異なるため、本来であればひとまとめにはできない契約者です。
では、実際、MNOの契約者数はどの程度まで拡大したのでしょうか。楽天モバイルは、折に触れて「累計契約申込者数」を公表していますが、この数字もあくまで参考値にしかなりません。なぜならば、ここには解約者が含まれているため、すでに楽天モバイルを見限って他社にMNPしたユーザーも1人にカウントされてしまっているからです。申し込みをしたものの、「やっぱりいいや」とキャンセルした人も1カウントされてしまうため、事業を継続すればするほど、実態と乖離していくことになります。
その証拠に、8月11日に開催された決算説明会では、3月末時点での累計契約申込者数と契約者の開きに疑問が投げかけられました(投げかけたのは筆者ですが)。同社のCEOである三木谷浩史氏がプレゼンテーション中に使った資料では、3月末時点での契約者数は289万と説明されています。これに対し、代表取締役社長の山田善久氏が業績を解説した際の資料では、3月時点での累計契約申込者数が351万と開示されています。
差し引きすると、その差は62万。昨年は、「Rakuten Mini」の在庫が尽きてしまい、配送が遅れたためにズレが生じていましたが、最近ではこうしたトラブルは少なくなっています。にも関わらず、現時点ではこうした「特殊要因はない」(山田氏)ということは、常時60万以上の差分が出てきてしまっているわけです。「4月初めまでの1年無料キャンペーンがあり、ラスト(駆け込み)の申し込みがある」(同)ため、累計申込者数がやや過大に出ている可能性はあるものの、累計契約申込者数が実態を表している数値とは言えなくなってきていることが分かります。
同じ決算説明会で、楽天モバイルは6月の累計契約申込者数を442万と発表していますが、実契約者数との開きが生じていることを踏まえると、額面通りに受け取れないのが実情です。ただし、実は真水の契約者数は別の場所で公開されています。総務省が電気通信事業報告規則に則り、各キャリアから契約者の実数を報告することを求めているからです。ここで報告された数字は、四半期ごとに公開されていて、最新の数字は3月末のものになります。
総務省には、MNOとMVNOの数字をきちんと分けて報告しているため、このデータを元に差分を計算していけば、楽天モバイルの真の実力が分かります。総務省の「電気通信サービスの契約者及びシェアに関する四半期データの公表」を見ると、3月末時点で楽天モバイルのMNOは全契約者数の内、1.5%のシェアを占めています。MVNOまで含めた全キャリアの合計は、1億9512万契約。ここに1.5%をかけると約292万になり、三木谷氏の資料にあった289万とほぼイコールになります。3万程度差分がありますが。
これに対し、3月時点でのMVNOとしての楽天モバイルは、11.4%のシェアを取っています。これは、いわゆる格安スマホ、格安SIMと呼ばれる「SIMカード型」の中のシェア。全体は1568万契約のため、楽天モバイルのMVNOには依然として約178万契約ものユーザーが残っていることが分かります。新規契約を終了してはいるものの、ユーザーの移行は徐々にしか進んでいないようです。3月時点でのMNOとMVNOの契約数を合算すると、約470万になります。
ここで冒頭の500万契約に戻りますが、この500万契約から470万契約を引くと残るのは、約5カ月で純増したユーザーの数ということになります。5カ月弱での純増は30万、1カ月にならすと6万契約強が増えていることになります。MVNOの楽天モバイルは新規契約を終了しているため、30万の純増はほとんどがMNOとしての楽天モバイルに加算されています。その結果、楽天モバイルのMNOは、8月23日時点で最低でも322万前後の契約者を抱えていることが推察できます。
ただし、ここにはMVNOからMNOに移行した契約者が含まれていません。MVNOからMNOへの移行は全体で見ると±0ですが、MNOの契約者数を底上げすることにはなります。どの程度、移行しているかの数字は厳密には分からないため推測になりますが、MVNOの楽天モバイルは四半期ごとに2%前後のシェアを失っているため、1カ月で10万契約前後が流出しています。そのすべてが楽天モバイルのMNOに移行した場合、おおむね370万契約、半分程度が他社に逃げてしまったと想定すると345万契約程度がMNOの今現在の実力値ということになります。
楽天モバイルは、6月時点での累計契約申込者数を422万と公表しているため、仮にMNOが350万契約程度だとしても、実契約との差分はさらに広がっています。7月、8月ぶんの累計契約申込者数はまだ発表されていないため、次回発表時にはその差がさらに開く可能性は非常に高いと思います。こうなると、もはや累計契約申込者数という数字自体があまり意味をなさないどころか、解約者数や解約率がなんとなく分かる数字になってしまいます。サービス開始当初であれば勢いを示す数値として一定の理解はできましたが、1年以上経った今、KPIとしての役割は果たしていないと言えるでしょう。
345〜370万の契約は、1年強で達成した数字としては十分立派なもので、楽天モバイルの料金プランやエコシステムが評価された結果と言えるでしょう。一方で、ナンバー1を目指すことを公言していることを考えると、まだまだ規模は小さいと言えます。例えば、ソフトバンクはサブブランドのワイモバイルだけで、すでに700万契約を超えていることを明らかにしています。ドコモのahamoも、8月時点で180万を突破。KDDIのpovoも約100万で、1カ月ごとの契約者数は楽天モバイルより多くなります。
既存事業者は既存事業者であるがゆえに大きな母体があり、プランやブランドの変更だけでユーザーを稼ぐことができてしまうため、一概には比較できません。一方で、こうしたキャリアに真正面から対抗していくのであれば、さらに勢いを加速させる必要があることも事実です。
もっとも、現時点で獲得を予想以上に増やしてしまうと、KDDIへのローミング費用がかさんでしまう問題があるため、エリアの拡大待ちといったところなのかもしれません。その意味で、半導体不足によるエリア拡大の遅れは、楽天モバイルにとって痛手と言えるでしょう。それとは別に、そろそろ累計契約申込者数ではなく、きちんとした契約者数で規模感を開示してほしいところ。どのみち総務省に報告するのであれば、数値は一元化した方が誤解を招かないと思います。