カーリング沼の成功に学ぶ、オリンピックの感動をつなぐSNSの使い方(徳力基彦) - 個人 - Yahoo!ニュース
2週間にわたって開催された北京オリンピック。
後半の山場として、カーリング日本代表の活躍に興奮された方も少なくないのではないでしょうか。
4年間の間に見事な成長を見せて銀メダルを獲得してくれたロコ・ソラーレですが、カーリング協会を中心とする日本カーリング界のSNS活用が、それを上回るほどの劇的な進化を見せていたのをご存じでしょうか。
YouTube配信の「#カーリング沼」が人気に
特に今大会のカーリング協会で、非常にユニークな活動として注目すべきなのが「#カーリング沼 へようこそ!」と名付けられたYouTube配信でしょう。
カーリング協会のメンバーを中心に、オリンピックのカーリングの試合の振り返りを頻繁にライブ中継で実施。
1月16日の大会前に開始し、決勝終了後の振り返りの配信まで、約1ヶ月強の間になんと16回もライブ配信を実施していました。
もちろん、オリンピックの放映権の関係もあり、YouTubeライブの中では実際の試合映像は見ることはできません。
ただ、そこは「氷上のチェス」ともよばれる頭脳スポーツでもあるカーリングならではで、カーリングのハウスやストーンをパソコンの画面で表示して、まるで将棋の解説番組のように一投一投の裏側を見ていくことができる仕組みになっているのです。
カーリングはテレビの地上波でも長い放映時間が確保されるようにはなりましたが、どうしてもリアルタイムの解説は限界があるため、テレビでの注目は「そだねー」や「ナイスー」の掛け声や、もぐもぐタイムなど、見た目に分かりやすい表面上の所に注目が集まりがち。
それでは物足りないカーリングの魅力の奥深さを楽しむ、まさに「#カーリング沼」にはまったカーリングファン向けの番組になっています。
カーリング界の星飛雄馬と星一徹?
しかも興味深いのが、解説に頻繁に登場するのが、フォルティウス(元北海道銀行)という、ロコ・ソラーレと日本代表の座をかけて死闘を演じたチームの選手という点。
ある意味、ライバルでもありますし、当然自分達がオリンピックに出られず悔しいという思いは間違いなくあるはず。
それでも、カーリング界の盛り上がりのために喜んで参加されているのが、カーリング界ならではという印象も受けます。
参考:元北海道銀行・フォルティウスが代表決定戦で激闘のライバルへ五輪の夢託す…吉村「ロコなら大丈夫」
そんな現役選手が登場することもあり、カーリングの細かい解説や裏話が聞けるのも大きな魅力。
カーリング協会のツイッターアカウントも、活発に試合のツイートや海外アカウントとのコミュニケーションを繰り返しており、ツイートがメディアで話題になるほどです。
参考: 「ちょっと手が震えて…」カーリング協会が興奮ツイート、本橋麻里さんは「忍耐!ど根性~!」
今回の北京五輪では、選手達がSNS投稿に様々なリスクを抱えているため、日本代表選手達のオフショットの写真はほとんどSNS上にあがっていません。
参考:北京五輪と東京五輪の違いから考える、日本代表選手のSNS投稿の価値
ただ、カーリング協会は、「#カーリング沼」のYouTubeライブの中でも、選手からLINEで送ってもらった写真を紹介したり、ツイッターアカウント等に公開したりと、オフショットの可視化に注力されており、着実にSNS活用を通じた話題作りに効いているのが見て取れます。
実際、Googleトレンドで「カーリング」という単語の検索数の推移を見てみると、オリンピックの時だけ大きく盛り上がるというサイクルが繰り返されてはいますが、徐々にオリンピック以外でも検索数が盛り上がりはじめているようにも見えます。
こうしたカーリング協会の日頃からの積極的なSNS活用の努力が、実を結びはじめているのかもしれません。
4年前はほぼSNS活用をしていなかった
なお、こういう話をすると「カーリングだからでしょ、昔からSNS活用上手いんでしょ」と他のスポーツ協会の方々が諦めてしまうかもしれませんので、あえて失礼を承知で釘を刺しておきますと、実は4年前のカーリング協会は、ほとんどSNS活用をしていない状態だったと記憶しています。
なにしろ、2017年に実施したカーリング協会のクラウドファンディングは、目標300万円の所が4万円弱しか集まらなかったほど。
いまカーリング協会がクラウドファンディングをやったら、間違いなく大成功するでしょうから、信じられないと感じる方も多いはずです。
参考:カーリング協会の失敗に学ぶクラウドファンディング成功の3つの鍵
平昌五輪の時は、おそらくカーリング協会はSNSアカウントもほぼなかったはずで、吉田知那美選手がインスタグラムを活用するなど、数名の選手が個人で活用しているだけだった印象があります。
一応、カーリング協会のYouTubeチャンネルは、平昌五輪直前に開設されていますが、国内大会の動画をアップするのに使っていただけで、オリンピックに関係する動画は全くアップしていなかったようです。
一人の担当者の熱意ができること
それが平昌五輪後の2018年12月頃から、カーリング協会はツイッターやインスタグラムの公式アカウントを立て続けに開設し、積極的な投稿を開始するようになりました。
それが、今のSNSアクティブなカーリング協会の状況を作り上げるきっかけになっているように見えます。
ツイッター上でカーリングを応援する姿がメディアでも話題になった、平昌五輪代表メンバーでもありロコ・ソラーレ理事の本橋真理さんのアカウントも、2019年開設のようですから、カーリング協会のSNS活用が選手や関係者にも拡がった結果の1つなのかもしれません。
参考:「みんなーーー」本橋麻里ロコ・ソラーレ代表 テレビ越し「麻里ちゃーん」に呼応
カーリング協会のSNSアカウントを担当しているのは、カーリング協会マーケティング委員の岩永さんという方のようですが、FRIDAYの取材によると、なんと岩永さんは実はフルタイムの職員ではなく「本業は日本企業のアメリカ支社に赴任中の会社員」なんだとか。
参考:脱・4年に一度ブーム…カーリング協会が仕掛ける「カーリング沼」
時差のあるアメリカでの本業をこなしながら「ツイッターやインスタグラム、YouTubeの動画配信と八面六臂の活躍をしている」というのも驚きですが、逆に、一人の熱意があるSNS担当がサポートすることによって、カーリング協会のSNS活用が4年でここまで激変したとも言えるわけです。
SNS時代のオリンピックの楽しみ方
今回の「#カーリング沼」の企画も、昨年の年末あたりから岩永さんが暖めてきた企画の模様。
「#カーリング沼」のYouTubeライブも、岩永さんの熱意に周囲のカーリング関係者が動かされたことにより、ここまでの頻度や規模感で実現したもののようです。
もちろん、岩永さん一人で拡げたわけではなく、個人でのYouTube活用にも積極的な山口剛史選手や、2011年からツイッターアカウントを運用しているフォルティウスの近江谷杏菜選手や小野寺佳歩選手などのサポートがあるのも大きいのは間違いありません。
ただポイントは、実はこうしたカーリング協会のSNS活用促進を進めてきたのは、個人1人1人の熱意や挑戦という点です。
そう聞けば、他のスポーツ協会の方々や関係者の方々も、自分一人でも何かはじめられることがあるのではないか、と感じられるのではないでしょうか。
今回のオリンピックは、人権問題やドーピング問題、ブランドロゴの見えるスノーボードの利用が禁止された問題など、様々な形で現在のオリンピックやIOCの在り方が問題になりました。
ただ一方で、日本代表をはじめとする様々な選手の活躍や言葉が私たちに勇気をくれたように、スポーツの素晴らしさを再確認する大会でもあったと思います。
カーリング協会が証明してくれたように、SNSを上手に活用すれば、これまでのIOCが主導するオリンピックの放映権やメディア露出とは違った形で、スポーツの魅力をファンに伝えられる可能性が見えてきています。
是非、日本の様々なスポーツ業界の方々に「#カーリング沼」を参考にしていただいて、2年後のパリや4年後のミラノでは、さらなる様々なスポーツの沼が増えていることを楽しみにしたいと思います。