「眠れる巨人」: Google の新たな一手、コネクテッドTV戦争を揺るがす | DIGIDAY[日本版]
ストリーミングアプリメーカーは早めのクリスマスプレゼントを受け取った。9月30日、Googleが「Chromecast(クロームキャスト)」コネクテッドTVデバイスのアップデートを発表したのだ。
発表では、Chromecastをより完全なコネクテッドTVデバイスにする新しいユーザーインターフェース「Google TV」が紹介されただけではなく、コネクテッドTV市場でのAmazonやロク(Roku)の正真正銘の脅威として、Googleが再度立ちはだかることが示された。ストリーミングアプリディストリビューター間の競争激化は、ストリーミングアプリメーカーに利益をもたらす可能性がある。
揺れ動くパワーバランス
コネクテッドTVメーカー間で起きかけている闘いは、さまざまなストリーミング戦争のなかでもっとも影響が大きいかもしれない。Amazonとロクは、多くの業界専門家から2大コネクテッドTVプラットフォーム運営者と見なされている。月間アクティブユーザー数がそれぞれ4000万人を超えることから、ワーナーメディア(WarnerMedia)やNBC ユニバーサル(NBCUniversal)との最近の対立が示しているように、ますます、その地位を利用して、配信契約で強硬路線を取っている。GoogleやApple、サムスン(Samsung)などの他社は、競合する独自のコネクテッドTVプラットフォームを運営しているが、上位2社に大差をつけられながら3位を目指して競争しているとおおむね見なされてきた。
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「今のところ、基本的には、ロクとAmazonはほぼ互角だ。そして、それ以外の企業がひしめき合っている」と、あるストリーミング企業幹部は話す。
だが、Googleの台頭で2社の支配が弱まり、十分な競争が行われるようになって、ストリーミングアプリメーカーにパワーバランスが戻る可能性もある。Googleのプラットフォームでワーナーメディアのストリーミングサービスが利用可能なことが、ホリデーシーズンの買い物客にChromecastを選ぶことを迫るのに十分であれば、Amazonとロクは、プラットフォームからHBOマックス(HBO Max)を締め出したいとはあまり思わないかもしれない。同様に、コネクテッドTVデバイス市場の細分化が進むほど、広告主から見て、コネクテッドTVの広告市場がさらに難しいものになる。そうなると、コムキャスト(Comcast)やディズニー(Disney)、バイアコムCBS(ViacomCBS)のような、さまざまなコネクテッドTVプラットフォームに渡って、多くのオーディエンスを提供できる広告収入型ストリーミングアプリ運営企業大手が、有利になる可能性がある。
Googleは、コネクテッドTVデバイスをすでに1台以上所有している世帯にも進出するチャンスだと感じているようだ。最新のChromecastには、Netflixの月額12.99ドル(約1369円)の標準サブスクリプションを半年間無料にするバンドル版も提供される。このバンドル版は89.99ドルで販売され、標準のChromecastより約40ドル高くつく。だが、既存のNetflix契約者であっても半年分の番組視聴が無料提供されるので、今後半年以上にわたってNetflixを視聴し続ける場合、実質12ドルでChromecastを購入できるわけだ。
すでにコネクテッドTV大手
今年のホリデーシーズンにAmazonやロクのコネクテッドTVデバイスよりも多く売れるかどうかに関係なく、コネクテッドTVへの取り組みを倍加するGoogleによって、コネクテッドTV市場の競争が平坦で、なおかつGoogleがすでにどれだけのシェアを握っているのか、浮き彫りになる。
ストラテジー・アナリティクス(Strategy Analytics)によると、サムスンのTizen(タイゼン)は、世界でもっとも人気があるコネクテッドTVプラットフォームだが、2020年第1四半期には世界市場でのシェアが11%にとどまったという。なお、AmazonとロクのコネクテッドTVプラットフォームのシェアは、それぞれ5%だった。一方、Android TVの4%とChromecastの3%の双方のシェアにより、Googleは実際には、世界市場でAmazonやロクを上回っていた可能性もある。
言い換えると、Googleはすでに、コネクテッドTV大手としての地位を確立してきた。前出の幹部によると、ある大手ストリーミングサービスでは、GoogleのChromecastは、米国では、視聴者数でロクとAmazonのFire TVに次いで、3番目に人気のプラットフォームだという。また、コネクテッドTVは、YouTubeの視聴者数でシェアを伸ばしている。コンビバ(Conviva)によれば、2020年第2四半期には、YouTube動画の視聴時間の27%がTVでの視聴だったという。「YouTubeは、NetflixやHulu(フールー)などと並んで、リビング用プラットフォームの選択肢になりつつある」と、あるメディア幹部は指摘する。
巨人になるのに必須の要素
だが、Googleは、コネクテッドTV業界でそれ相応の注目を集めていない。これは、組み込まれているスマートTV用のAndroid TVプラットフォームに払われる注意と関係があるのかもしれない。GoogleのコネクテッドTVプラットフォームに払われる注意は、Android TVとChromecastのコネクテッドTVプラットフォーム2種類を運営している事実によって、さらに小さくなりうる。理由が何であれ、業界内には、コネクテッドTV分野でGoogleをうたた寝させてきた企業もあれば、潜在的に目覚めさせてきた企業もある。
「コネクテッドTV分野の眠れる巨人はGoogleだ」と、あるエージェンシー幹部は話す。この幹部は、Googleが「コネクテッドTV分野をのろのろと進んできたが、たどり着いてもまだ、さらに遅々としたペースだろう」とみている。
つまり、2つのコネクテッドTVプラットフォームと、YouTubeの増加するコネクテッドTVの視聴者、ディズニーの類やバイアコムCBSのCBSサイド向けの動画広告ビジネスにすでに利用されているGoogleの広告技術プラットフォームがあり、Googleは、コネクテッドTV業界の巨人になるのに必須の要素を備えていると思われる。それに、ChromecastとGoogle TVの最新の発表は、Googleがそのふたつを結集し始めていることを示唆している。
[原文:‘Sleeping giant’: How Google stands to shake up the connected TV platform war]
TIM PETERSON(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:長田真)