これ以下はない忠実度と、信じられないほどの没入感:UnityのAR/VR責任者ティモニ・ウェストが語るXRの未来
奇妙ではあるが予想はされていたことがVR(仮想現実)とAR(拡張現実)の世界で起こりつつある。
どのSF技術もそうだが、新しもの好きたちはVRとARを、まるでそれらが夢の世界のものであるかのようにはやし立てる。どちらもいまはまだメインストリームではないし、それどころか普及すらしていないが、いつか誰かが実現させるであろう空想の世界には欠かせないものだ、と。そして、その世界にメタヴァースが加わったいま、テック業界の伝道者たちは喜々として「その空想の未来へのチケットとして誰もがヘッドセットを装着しなければならない」と言うのだ。
「現在、ほとんどのXRはUnityを利用してつくられている」と『WIRED』に語るUnity Technology(ユニティ・テクノロジー)のサンフランシスコ本社の面々のなかでも、拡張・仮想現実部門副社長であるティモニ・ウェストほど、VRとARの現状を深く知る者は他にほとんどいない。彼女は将来的にはほぼすべてのクリエイティヴツールにXRが構成要素として何らかの形で関係することになると確信している。だが同時に、浮き足立つことなくしっかり地に足を着けている。そうしなければ、XRの非公式な指導者として活動することができなくなるからだ。
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『WIRED』は現実と空想をふるいにかけてXRでいったい何ができるのかを明らかにするために、ウェストにインタヴューを行なった。意外なことに、多くのことがデータを大量に集められるかどうかにかかっているようだ。以下がそのインタヴューの様子だ。わかりやすさと分量を調節するために、わずかに修正を加えた。
WIRED:まず、ある意味で存在論的な質問から始めましょう。テック企業は今後VRまたはARの内側にひとつのあるいは複数のメタヴァースが存在することになると断言していて、人々がそこで暮らす、あるいはそこへ行くことになる、という考えが拡がっています。あなたはVRとARをツールと捉えているのでしょうか? それともむしろ目的地でしょうか?
ティモニ・ウェスト:いい質問です。わたしはそのどちらでもないと考えています。わたしは、XRを利用できるさまざまな媒体のひとつとみなしています。例えば、わたしたちが開発したARモバイルアプリ[ベータ版]を使えば、空間をスキャンしてグレーボックスに変換し、オブジェクトの配置や自動タグ付けなどを行ななえます。つまり、ARが最も得意とすることにARを使っているのです。VRが得意とする分野にはVRを使うでしょう。例えば何かに出席したり、誰かに会ったり、彫刻したり、つまり本質的に3Dであることが求められる場面です。
VIDEO BY UNITY
──つまり、あなたにとっては媒体である、と。これまで興味深く観察してきたのですが、テック企業はVRとARをツールとみなすべきか場所とみなすべきかで揺れ動いているようです。何かをするあるいは何かにアクセスする方法なのか、それとも没入する場所なのか、決めかねているように見えます。
おかしなことだと思いませんか? わたしの考えは違っていて、その両方の組み合わせだと思っています。ちょうどサイバースペースと同じことです。みんな「サイバースペースへ行ってウェブサーフィンをしよう」なんて言っていたのを覚えていますか? わたしたちはいまだに同じような言葉を使っています。ウェブサイトへ行って、ホームページを訪問する。まるで旅行をするかのような表現です。
でも、本当に旅行をするのでしょうか? そんなことはありません。それでもそう考えるのが、おそらく人間の習性なのでしょう。時間を過ごすことを、旅と捉えるのです。時間について話すとき、時間を旅するとき、わたしたちは移動の言葉を使います。だから、もし[そのような]旅のメタファーを使わない言語があるなら、他にどんなメタファーを使っているのか、とても興味があります。
──想像もできませんね! でもよく考えてみると、VRとARへの没入レヴェルはすでに高まりつつあって、常に接続されている、あるいは、常にそこにいるかのようです。いまのARにはGPS機能がふんだんに取り入れられていて、例えば『ポケモンGO』のようなモバイルARが特に顕著です。これなどは、ARの中に「いる」、あるいはメタヴァースに「存在する」ということを支持するひとつのポイントになるのでは?
そのとおりです。Unityのゲームエンジンを見たことがありますか?
──ええ。
それなら、そこには窓があって、窓の向こうには無限に見える平面と単調な青い空があるのを知っているはずです。もっと面白いものならいいのに、と個人的には思うのですが、それはともかく、誰かの通信信号をつかまえて、その人たちが歩き回れば、あなたにもUnityのシーン上にその人たちが動いている様子が見えます。そして、その人たちがスマホを持ってその場所をスキャンしたとしましょう。そうするとスキャンした対象が、あれもこれもUnityのシーンに現れます。もし人をトラッキングすれば、わたしたち人間もそこに現れるのです。
いわば、現実の世界にプレイヤー1、プレイヤー2と呼び出すような話です。あなたがトラッキングされれば、あなたはデジタルな存在を手に入れます。ただそれはVR的な意味でのプレゼンスではありません。コンピューターが、あなたがそこにいて何かインタラクションをしていると認識していれば、その時点でわたしたちはメタゲームにいるということです。あるいはその逆も言えます。
──その話を聞くと、ARを用いた没入型シアターを思い出します。例えば、数年前にわたしはサンフランシスコで開かれたゲーム・デヴェロッパーズ・カンファレンスで、ARを用いた殺人ミステリータイプのゲームを試したことがあります。そこでは、実世界のセットにある物体をスマホでスキャンすれば、画面にさまざまなヒントが映し出されました。何と言うか、わたしたちはゲームをしていて、ゲームの中にいて、そしてわたしたちがゲームである、そんな感覚でした。
そのとおりです。その点に、わたしも興味をそそられます。わたしがテーマパークが大好きなのも同じ理由からでしょう。突然あなたは新しい場所に放り出される。そこには独自のルールがあって、さまざまなキャラクターと交流もできる。隅々までよく考えられていて、VRとの共通点が非常に多いことは指摘するまでもないでしょう。テーマパークはデザインを通じてあなたの現実を拡張しているのですが、いまではそこにデジタル技術も用いられています。ハリー・ポッター・ワールドに行ったことは?
──ありません。
すばらしいですよ。実際に魔法の杖があって、それを使っていろいろなことができるんです。杖を振れば魔法の呪文が現れたり。それらはどれも、デジタルと現実を融合させたものです。
──ええ、それが本当に大きな存在になったと言えます。テーマパークは文字通りわたしたちを追跡して、わたしたちを、つまりわたしたちのデータセットをアヴァターとしてパークのデジタルシミュレーションにインプットすることができるようになりました。面白い話です。この話で、数年前に起こった論争を思い出しました。ディズニー・ワールドが確かシューズを使って訪問客の動きを追跡する技術の特許を申請したんです。人気の乗り物やゲストの園内における移動経路などのデータを集めることが目的でした。この話を聞いたことがありますか?
ポピュラーなシューズ・ブランドがそうしようとしたのなら奇妙な話だと思いますが、考え自体は理にかなっていると思います。いまではディズニーのアプリがあって、ダウンロードすればゲームで遊べます。普通のゲームだけでなく、ARゲームもクイズゲームも含まれています。そして、ある程度の成績に達したら、あなたが園内のどの乗り物に行こうと、そのアプリがあなたの居場所を察知して、特典などをくれたりするのです。
そのうち、あなたが食堂に行くとアプリがそれを察知して、ロボットがあなたの成果について話しかけてきたりするようになるでしょう。想像してみてください。あなたは帰宅してVRヘッドセットを装着します。そしてVRヴァージョンのディズニー・ワールドを訪れると、キャラクターたちが現実よりももっと話しかけてくるのです。その際、最大の問題は規模でしょう。
──その話から、わたしは「Pokémon Go(ポケモン GO)」を生み出したナイアンティックを思い出しました。ナイアンティックもプレイヤーのいるエリアをとても細かいレヴェルでデジタルマップ化して、プレイヤーからのフィードバックをゲームに組み込みました。
ええ、そうやってナイアンティックは他の大企業ですら持ち合わせていないほど大量の歩行者情報を手に入れたのです。他の企業には自律走行車しかないのに、ナイアンティックは人々を歩かせることに成功しました。
──仮想の世界をつくるためにデータを集めるというのは、あなたにとっても取り入れてデザインすべき哲学なのでしょうか?
ええ、そのとおりです。ナイアンティックはわたしたちの大のお気に入りで、とても高く評価しています。他の誰ももっていない規模でまったく斬新なデータセットを集めたのですから、本当にすごいと思います。ナイアンティックが[ポケモンGOの基礎になるプラットフォームの]ライトシップ(Lightship)の一部としてUnity上でツールをつくったおかげで、他の人々もそこでサードパーティーゲームをつくれるようになりました。
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屋内の事柄についてはプライヴァシーの点で少しやっかいな問題があります。ですが、もし本当にあなた個人にまつわる、あなたの個性を理解した経験をしたいと願うなら、屋内レヴェルの詳細さも必要になってくるはずです。それに、プライヴァシーを守るためにデータをリアルタイムで処理して、決して保存されたり逆追跡されたりしないようにする仕組みの開発に取り組んでいる人もたくさんいます。
他の会社も起爆剤となるシステムを獲得して、より多くのプレイヤーをゲームに集め、そこからよりよいデータを集め、その結果ゲームをする人がさらに増え、そのおかげでさらに良質なデータを集められるようになればいいと思っています。
──ええ、ある意味で、世界の構築ですね。
BlizzCon[アクティヴィジョン(Activision)とブリザード(Blizzard)の合同カンファレンス]を思い浮かべてください。BlizzConに行って、あなた自身はそこにいながら自分自身のAR世界をつくったり、みんなで協力して世界をつくったりといったことがユースケースとして考えられます。
──BlizzConに来ている人々の身体に重なる形で「World of Warcraft」のアヴァターを見ることができたらすごいでしょうね。これはもう、本当にSFです。
いいえ、もはやSFではありません! 本当に、いまの時点でそれが可能なのです。
──本当ですか?
必要なのはボディトラッキングだけです。いいですか……新型のiPhoneに搭載されているU1チップは指向性を有しています。とても精度が高いので、チップがあなたの居場所を知っているのです。基本的にふたつの必須事項があって、そのひとつはボディトラッキング。これはもう存在します。もうひとつ必要なのは、あなたが誰なのかを具体的に知っているわたし。後者にはおそらくデヴァイスのハンドシェイク[編注:ふたつのデヴァイス間での接続プロセス]が必要になるでしょう。たぶん、ブレスレットとか、何らかの電子IDが使えれば大丈夫でしょう。あるいは、退屈なアイデアでもいいのなら、Tシャツの柄を使うこともできるでしょう。
──QRコードみたいなものですか?
そうです。
──ARが進む可能性のあるもうひとつの興味深い方向は、オンラインで分断されている人々のパーツを解き放つことだと思います。例えば、フォートナイトのスキンなど、みんなが各ゲームで使っているアヴァターたちのことです。
わたしも完全に同じ考えで、じつに興味深いテーマだと思います。ここで名前を挙げるつもりはありませんが、わたしが最近経験したVRでは、非常にリアルなアヴァターが必要でした。Altspace(オルトスペース)やVRChatでは、わたしはそんなアヴァターを使ったことがありません。VRChatでは、わたしは細くて短い脚が生えたバターです。とてもかわいいんです。一方、Altspaceでは、わたしは肌がピンクで、髪が白。ロボットのように見えます。
[最近経験したVRでは]実際には絶対に着ないような服に身を包んだ本当に退屈なわたし自身がそこにいて、とても落ち着かない気分でした。アヴァターでこんなに嫌な気分になったのは今回が初めてで、それがきっかけで、実際にオプションとして可能なら、人々は自分をどれほど、あるいはどんな方法で表現しようとするだろうか、と考えるようになりました。
──オプションは重要でしょうね。わたしはゲームをたくさんするので、例えばRobloxでのようなゲームの没入感の高さにいつも感心します。ここ5年ほどで、わたしたちは没入感について本当に多くのことを学んだと思います。人々がどれほどグラフィックの忠実さを意識するのか、運動や動きの精密さに関心を向けるのか、といったことです。あなたはこれまでどんな知識を得てきたのでしょうか? 一般に広まっている考えで、過ちが証明されたものはありますか?
忠実度の高さ(high fidelity)はさほど重要ではないようです。実際のところ、ヴィジュアルよりも感覚、フィーリングのほうが大切です。
──レイテンシーをとるか、レゾリューションをとるか、ということでしょうか?
そのとおりです。でも、それよりも少し深い問題だと思います。実際問題としてヘッドセットが遅いので、いくら望んでもVRで超写実的な映像を使うことはできないのです。この小さな隙間を埋める方法はありません。映画でさえ、まだそこまでたどり着いていないのですから。
その一方で、現実を可能な限り模倣しようとするVRをやってみると、わたしはどれもとても不快で抑圧的だと感じます。少なくとも、屋根を取っ払って、背後にはイルカか何かが泳いでいて欲しい、とか思ってしまいます。どうしてVRの世界で屋根が必要なのでしょう? 結局のところ、重要なのはその世界の仕組みが面白いかどうか。そして、この点でRobloxがとても興味深いのです。
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Robloxには仕組みがあり、そこにゲームをつくる人々が集まっています。そしてRobloxの内部で、ゲームに応じて仕組みが変わるのです。マインクラフトもそう。しっかりとしたルールが決まっていて、人々がその世界の中で文字通り何百万時間も費やすんですから。忠実度という点ではこれ以下はないと思えるほどなのに、それでも信じられないほど没入感が高いと言えるでしょう。
──ですが、VRはいま、岐路に立たされていると思えます。人々はそのような高い忠実度を求めているようです。次の世代のテクノロジー、次のステップの没入感を考えるとき、人々は忠実度に目を向けます。
それは学習の問題ではないでしょうか? 欲しいのなら、試してみればいい。超がつくほどリアルなゲームをやってみて、その可能性を経験したうえで、それが好きかどうかを判断すればいいでしょう。とは言え、あなたの言うことは正しいですし、その一方で人々はまだ何も知らない。ところで、[セカンドライフのクリエーターである]フィリップ・ローズデールをご存じですか?
──ええ、数週間前にメタヴァースについての取材でインタヴューしたばかりです。
すばらしい。わたしのチームはローズデールが立ち上げたHigh Fidelity(ハイ・フィデリティ)と協力していて、「アンフィシアター」に関与しています。2D空間オーディオ体験のことです。なぜローズデールたちはこんなに現実的な空間を選んだのかとわたしたちは思っていました。何だってできるのに、もっとすごいことをしないのはなぜ? すると、ローズデールはこう答えたんです。
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セカンドライフを立ち上げたころ、彼らは誰もがすぐに夢中になると予想していました。ところが、人々はフロリダにある自分の家を再現し始めました。みんな、もう知っているもの、慣れているものから始めたんです。時がたつにつれてゲームに没頭するようになっていったのですが、そのスタートとして現実的な基盤が必要だったのでしょう。いまの人々がVRに高い忠実度を求めるのも、同じ心理からだと思います。この媒体に慣れれば、VRの本当の長所にも目を向けるようになるでしょう。
──わたしの見立てでは、将来XRが主流になるという考えには、明らかに懐疑的な見方のほうが多いようです。その大部分は、現時点ではXRという考えにまだよく馴染んでいないからでしょう。ですが10年後はどうでしょうか。VRが主流になって、例えばプレイステーションのような拡がりを見せると思いますか? あるいは、そもそもそれが公平な比較だと思いますか?
わたしは実際に主流になると思っています。ただし、警告もしておきたいんです。おそらく、VRヘッドセットは予想以上に普及して、誰もが所有するようになるでしょう。でも、携帯電話との付き合い方とはまったく違うかたちになると思います。
わたしたちは常に電話を手放しません。ですが、1984年当時の従来の電話はどうだったでしょうか? 当時、米国の世帯のほとんどが電話を所有していたはずです。では、そのころから電話をずっと手放さなかったでしょうか? そんなことはありません。電話はどこにでもあって、市場も飽和していましたが、ひとつの具体的な目的のためだけに利用されていました。電話をするため、です。
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いまの電話はテレビをはじめとして、あらゆる機能を詰め込んだマルチデヴァイスになっています。もし電話をかけるためだけに使うのなら、常時使用していると言えるでしょうか? 言えないでしょう。
ヘッドセットが普及して、あらゆるスクリーンに取って代わるだろうという人がいますが、わたしはそうは思えません。スクリーンはすばらしい技術ですから。わたしはコンピューターをツールとみなしています。わたしの場合、たくさん文章を書くときや、大量のテキストを読む必要があるときに使っています。コンピューターはそのために設計されているからです。
コンピューターは1930年代からいままでずっと存在しつづけ、この特定の目的のために改善が続けられていると言えます。それと同じで、VRヘッドセットはどの家庭にも普及すると思いますが、ゲームや社会体験など、VRが得意とする分野だけで使われることになるでしょう。逆に言えば、四六時中使うツールになるとは思わないんです。