名称変更から1年。『au PAY マーケット』の流通総額163%増を支えたKDDIのau経済圏構想と、八津川社長の“共創共栄”戦略
昨年来のコロナ禍の中で、2020年度の実質GDPは対前年度比マイナス4.6%になったと、先ごろ内閣府から発表がなされた。リーマンショック時に比較しても大きなマイナスである。2021年度も状況は厳しく、緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置などの影響もあり、リアル店舗は青息吐息といったところである。一方で、そうした事態を受けてEC市場が拡大していることは周知の事実である。昨年5月に、それまでの「au Wowma!」から名称変更を実施した『au PAY マーケット』も、対前年比の流通総額を大きく伸ばし、躍進を遂げた。もちろん、名称を変えただけで躍進したわけではなく、そこにはKDDIが推進するau経済圏構想と、『au PAY マーケット』を展開するauコマース&ライフ株式会社が重視する、出店店舗との“共創共栄”戦略の相乗効果があったようだ。該社の代表取締役 兼 モール事業部長である八津川 博史社長にお話しを伺った。
20余年におよぶECモールとしての実績に裏打ちされた『au PAY マーケット』の実力
現在の『au PAY マーケット』は、2020年5月に名称変更されるまでは、「au Wowma!」という名称で展開されていたECモールである。さらにさかのぼる1999年には、その前身となるサービスは始まっていたのである。1999年といえば、楽天市場がスタートして2年後ということになるが、まさにECモールの黎明期において、すでに『au PAY マーケット』の遺伝子は誕生していたということになる。「1999年に、株式会社ディー・エヌ・エーがインターネットオークションサイト「ビッターズ」を開始しました。このサービスはすぐに好評となりました。しかしその頃は、インターネット・インフラも今ほどには整っておらず、またユーザーのネット・リテラシーも現代ほど高くなく、さらにはシステム投資も巨額、使い方のわからないユーザーをサポートするCSコストがかさんでしまったりと、ビジネスモデルとしては、収益の面で少々難ありという状況でした。そこで、オークションサイトのノウハウを生かしつつ、新たにショッピングサイトをスタートさせました。それが「DeNAショッピング」であり、DeNAグループとKDDIが協業で提供していた「auショッピングモール」と共に2016年にKDDIに事業譲渡されたのです。そして翌2017年に「Wowma!(ワウマ)」という名称でサービスが誕生しました。その後auと冠した「au Wowma!」、さらに昨年5月に『au PAY マーケット』に改称したという経緯です。」と、八津川社長は現在の『au PAY マーケット』に至る経緯を詳しく説明してくれた。
KDDIグループが推進する「au経済圏」の拡大と、ポイントの利用場所としての『au PAY マーケット』
『au PAY マーケット』に改称した背景には、近年急速に認知度や利用者数を伸ばしている「au PAY」のブランド力をさらに強化しようという意図があったようだ。かつ『au PAY マーケット』がKDDIグループの一員としてのECモールであることをユーザー層に強く印象付ける上でも、名称に統一性を持たせることは重要であったのだろう。「携帯キャリアがauでなくても利用していただけるau PAYとau PAY カードの会員は現在3200万人を超えており、『au PAY マーケット』が、au PAYを利用されているお客さまにとって、便利でお得なECモールであることをきちんとお伝えすることは重要でした。昨年5月に、「au Wowma!」から『au PAY マーケット』に名称変更したことで、そのことはストレートに伝わるようになり、多くのお客さまに『au PAY マーケット』を認知していただき、ご利用いただけるようになりました。」と八津川社長は言う。KDDIでは、通信事業を軸としつつ、金融サービスや、電気などのライフインフラサービス、そしてコマースサービスを通じた、人々の暮らしのあらゆるシーンでのお客さま接点強化と、グループ各社のサービスにおけるポイントの流通によって、“au経済圏”を拡大し、ライフデザインの成長戦略を推進している。そうした大きな戦略の中で、『au PAY マーケット』はポイントの使い先としてお得に買い物ができる場所として位置付けられているという。「生活のあらゆるシーンで、ポイントでつながる経済圏がau経済圏として出来上がっています。それらのポイントを使って、便利でお得に買い物をしていただけるのが、『au PAY マーケット』になるということです。昨年から今年にかけては、コロナ禍の影響で日本経済は厳しい状況でしたが、その中でECが生活インフラの役割を担いつつあると感じています。『au PAY マーケット』においても、第1回目の緊急事態宣言下で利用者が増え、かつそこで利用しはじめてくださった方々のリピート率が高まりました。出店店舗様と共同で実施した各種企画の成果や、さまざまなポイント施策展開が誘客につながったということが背景にはあります。また、「お得なポイント交換所」を利用する利活用、auスマートパスプレミアムの会員であれば、ポイントの還元率がさらに高くなるなど、『au PAY マーケット』でのお買い物がよりお得になるような施策も効果がありました。さらに名称変更にあわせて、Pontaポイントをau経済圏の中で一本化したことも効果的だったと考えています。こうした施策によって、お客様には継続して何度も利用していただけるようになったのです。おかげさまで、名称変更後の業績としては、流通額が対前年比で163%にも達し、大きく成長することができました。」2020年以降、EC市場そのものも当然に成長しているが、『au PAY マーケット』の伸び率は、EC市場全体の伸び率をはるかに凌駕する好業績であった。さらにいえば、au PAY アプリと『au PAY マーケット』をシームレスに使えるようにしたことで、au PAY アプリからの買い物行動への移行の障壁をなくすというユーザビリティの改善も、大きな成果に結びついているようだ。
出店事業者との“共創共栄”戦略によって実現する、ユーザー・店舗・『au PAY マーケット』のwin-win-win
もちろん、すべてのEC事業者が一律に成長しているわけではない。コロナ禍による人々の生活様式の変化で、マーケットの様子は大きく変わったという。「『au PAY マーケット』をカテゴリ軸で見てみますと、マスクや消毒液などの衛生用品や、食料品は伸びています。また、アウトドアグッズも伸びていますね。一方で、人々の外出が減ったことで、苦戦を強いられているカテゴリの店舗さまもありますが、“お家需要”を見据えて戦略展開していただき、業績を伸ばしている店舗さまも多くあります。現在のように、事業環境が厳しくなっている状況では、いわゆる独自ドメインでのEC事業展開以外にも、『au PAY マーケット』のようなECモールにも出店することのメリットを享受していただけると思います。そのメリットのひとつが、データです。ユーザーに関するデータや、どんな商品が売れているかといったデータ、どんな人がどんな商品を購入しているのかといったデータが、いわゆる独自ドメインで集められるデータとは比較にならないくらい質・量ともに優れているわけです。マーケティング施策に役立つ有益な情報を分析して、顧客のことを深く知り、適切な提案を、タイムリーに実施していくことで、出店いただいている店舗さまと一緒に成長し続けることが可能だと確信しています。私自身、社内で良く言うのは“共創共栄”です。『au PAY マーケット』と店舗さまとが共に、データに基づいて、新しい“何か”を創造する。その何かは、新商品かもしれないですし、新しい顧客アプローチの方法かもしれない。いずれにしろ、一緒になって創造することで顧客に満足を提供し、その結果、店舗さまと『au PAY マーケット』が共に栄える、そういう関係性が重要だと考えて実践しています。必要に応じて、“共創”のための勉強会なども開催するなど、チャレンジし続けています。共創が生んだ一つの例がライブコマースです。『au PAY マーケット』の集客力を活用いただいて、事業者さんには自社の魅力を直接アピールしていただく。まだ改善点はありますが、モールの常識のとらわれずに挑戦をすることは大事だと考えています。」と八津川社長が言うように、『au PAY マーケット』では、ユーザーと出店店舗を含む三者のwin-win-winの関係が構築できているようだ。その良好な関係性が継続・発展していれば、『au PAY マーケット』は、さらに大きなECモールに成長していくに違いない。