沿って, smartwatches 14/04/2022

編集長・山本晃弘のロングインタビュー~セイコーウオッチ高橋修司社長に訊く。:アエラスタイルマガジン

山本:まずは、グランドセイコーのことをお尋ねします。2017年にセイコーから独立したブランドになるときに、私自身は戦略として間違っていないとは思いましたが、こんなにスピーディーに成功すると思いませんでした。高橋社長は、あのときにこういうスピード感を思い描かれていましたか?

高橋:グランドセイコーのグローバル化は2010年からスタートしましたが、販売店さまや海外の時計ジャーナリスト、時計愛好家の皆さまに本当に認められるまでに、時間がかかりました。海外のジャーナリストを日本にお呼びして工場を見てもらったり、われわれの匠の技を見てもらったり、グランドセイコーのすごさ、すばらしさをずっとPRしつづけてきました。それだけの準備期間が必要だったということです。そして2017年のブランド独立化を機に、それまでのSEIKOの流通戦略とは別にグランドセイコー独自の戦略を打ち立て取り組みました。アメリカでは2018年にSEIKOとは別会社(GSA)を設立し、一気にビジネスを拡大していきました。

山本:グランドセイコーがブレークするときのキーフレーズが、「クワイエットラグジュアリー」という言葉だと、以前に高橋社長から伺いました。コミュニケーションの在り方が変わってきているということでしたが、例えば、腕時計の愛好家やアンティークマーケットのコレクターが、まず評価しはじめた。それに加えて、新しいタイプの起業家たちが、「従来の高級ブランドのこれ見よがしの腕時計ではなくて、いいブランドはないの?」と言いはじめたときに、クワイエットラグジュアリーという言葉と共に、ストンとグランドセイコーがマッチしたわけですか? タイミングがぴったり合いましたね。

高橋:そういう時代の流れだったと思います。世の中がいろいろと成熟化してきて、東洋の文化や日本に対するブームが海外で起きてきました。寿司や和食なんて当たり前で禅のことや日本の陶器にやたらと詳しい人がいたり、日本の温泉に何度も行っていたり、そういう世界的なブームみたいなものがあり、グランドセイコーのスタンダードなデザインは日本では地味と言われることもありますが、これが海外ではクワイエットラグジュアリーと呼んでもらい、非常にうれしい出来事でした。ミニマルで、余分な装飾がなくて、それでいてたたずまいが凛(りん)として端正だと。グランドセイコーをクワイエットラグジュアリーだと言ってもらえたことはわれわれにとってすごく新鮮でした。海外で新富裕層と言われるような人たちが、従来の高級時計に飽き足らず、ニューラグジュアリーとでもいうものを求めている。ほかの人に自慢するとか、見せびらかすというようなことではなくて、自分自身がそれを納得して、自分のライフスタイルや価値観に合うものがしっかり選ばれる。そのためにも、そういう新しい人たちに向けてブランドを打ち出していきたいと思います。

山本:ニューラグジュアリーと言われると、ポストコロナの時代にもつながってきますよね。いま、皆さんが自分にとって何がラグジュアリーなのかを考えはじめています。ブランドだからとか、高いからというだけではなくて、SDGs的な視点もありましょうし。自分とはなんぞやと問いかけて、自分にふさわしい腕時計はなんだろうと考えたときに、ニューラグジュアリーの概念は、非常に重要になってくると思います。

編集長・山本晃弘のロングインタビュー~セイコーウオッチ高橋修司社長に訊く。:アエラスタイルマガジン

高橋:SDGsというキーワードが出ましたけど、われわれが末永くビジネスをしていくときに、地球とのサスティナブルな共存っていうのは非常に重要な要素です。もちろん地球環境の問題もあるし、地域振興の問題もあるし、働き方の問題もあります。いろいろな要素がありますが、SDGs的な発想でこのグランドセイコーのビジネスをしっかりと伸ばしていくことができたらよいと思っています。

山本:じつは、グランドセイコーのタグラインである「THE NATURE OF TIME」っていう言葉を最初にお伺いしたときには、正直に言うと意味がわからなかったんですよ。それがいまお話を聞いて、惑星直列みたいに全部つながってきた。サスティナブルなこととか、日本の美意識とか、クワイエットラグジュアリーみたいなことなど、THE NATURE OF TIMEがそういう意味であることがわかりました。

高橋:英語でネイチャーは自然という意味と本質という意味があります。日本人には、解説を加えないと、時の自然ってなんだろうって思いますよね。

山本:思っていました(苦笑)。でも「時の本質」となると、まさにセイコーそのものですね。創業者の服部金太郎さんが最初に考えたものと同じですね。それで、雫石の工場にまで行って、自然の中で時計が作られているのを見たら、もう全部がつながりますよね。

高橋:雫石も、塩尻もそうです。豊かな自然があるし、その自然をモチーフにした文字盤の腕時計もあります。これからは、ネイチャーというのは自然と、時計の本質というダブルミーニングで、われわれはコミュニケーションしていきます。広告表現を見てもらえれば、このネイチャーという言葉の意図はわかってもらえると思います。