携帯端末の単体販売を拒否する店、オンライン解約に否定的な通信会社も ── 総務省が覆面調査(佐野正弘)
ある意味、菅政権の鶴の一声で料金と商習慣の大幅な見直しが進められた携帯電話業界。ですがそれでもまだ、総務省では公正競争に向けたルール整備に向け、いくつかの議論が進められています。中でも2021年4月26日に実施された有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」の第17回会合で注目を集めたものの1つに、オンライン解約手続きが挙げられます。
携帯大手3社、中でもキャリアショップでの販売を重視するメインブランドは、契約や番号ポータビリティ(MNP)による転出こそオンラインでできるようになりましたが、他社に移ることなく単純に回線を解約する「単純解約」に関しては、ショップに行かなければ対応してもらえませんでした。コロナ禍による店舗営業の制限を受けて電話での解約対応をするケースも出てきてはいましたが、オンラインで解約する手段は用意されてこなかったのです。
スマートフォンに慣れた人はそうした状況に長い間不満を抱いていたかと思いますし、コロナ禍でショップに足を運ぶのをためらう現状ではなおさらでしょう。そうした状況を受けてか、総務省に要望書を提出したのが関東弁護士会連合会です。
その要望書では、インターネットやスマートフォンを通じたMNPの予約番号の発行、及び解約手続きができるようにすることを、携帯電話会社に義務付けるよう法整備することを求めていたようです。そこでまだ対応が進められていないオンライン解約手続きに関して、先の有識者会議で議論が進められるに至った訳です。
ですがそれに先んじて、オンライン解約の導入に踏み切ったのがNTTドコモです。実際同社は2021年3月24日よりオンライン解約手続きを導入。現在はまだ「ドコモ光」とのセット契約者など、一部オンラインで対応できないケースもあるようですが、2021年夏頃にはほぼ全ての解約手続きをオンラインに対応するとしています。
一方、オンライン解約に否定的な見解を示しているのがKDDIです。同社は単純解約がMNPでの転出による解約とは異なり、解約した時点で通話や通信が一切できなくなってしまうことで取り返しのつかないトラブルが起き得るとし、店頭や電話で丁寧な説明と意思確認が必要なことから、オンラインに不慣れな顧客もいる「au」「UQ mobile」でのオンライン解約対応は進めたくないようです。
確かにオンライン解約で、スマートフォンに不慣れな人がトラブルに陥る可能性は十分考えられますが、だからといってスマートフォンに詳しい人にもオンラインで解約できる手段を提供しない、というKDDIの姿勢には疑問が少なからずあります。NTTドコモだけでなく楽天モバイルも既にオンライン解約を導入しており、トラブルが起きたケースはごく少数だとしていますし、ソフトバンクもメインブランドのソフトバンクブランドで今後オンライン解約の導入を検討するとしているだけに、KDDIには分が悪い状況と言えそうです。
ただ総務省はオンライン解約だけでなく、これまでにもeSIMの導入を積極的に推進するなどして、オンラインであらゆる手続きができることを携帯電話会社に強く求めてきてきましたが、それが実際に有効活用されるかに関しては疑問もあります。確かにスマートフォンに詳しい人達にとって、オンライン手続きの充実は待望といえるものですが、少子高齢化でスマートフォンに慣れ親しんでいないシニアが多い現状を考えると、オンライン手続きをうまく活用できる消費者はそこまで多くないという実情も考える必要があります。
そうした人達のスキルやリテラシーを高める上で、現在重要な拠点となっているのがキャリアショップであることに間違いないでしょう。ですが現在、そのキャリアショップのビジネスにひずみが生じており、それが新たな問題提起へとつながっているようです。それは今回の会合で取り上げられ、注目された要素の1つとなっていた、回線を契約していない人(非回線契約者)への端末販売に関する動向から見て取ることができます。
2019年10月の電気通信事業法改正によって、携帯電話会社が回線を条件に端末をセットで販売する際の利益提供、つまり値引き額上限は2万円に制限されています。ですが携帯3社が提供する「スマホおかえしプログラム」「かえトクプログラム」「トクするサポート+」といった端末購入プログラムは、回線契約をしている人も、していない人も同じ条件で利用できるようにすることで、電気通信事業法の規制を受けることなく2万円以上の利益提供が可能となっているのです。
それゆえ非回線契約者も、キャリアショップに行って端末購入プログラムを適用し、回線契約者と同じ条件でスマートフォンを購入できるはずなのですが、総務省が覆面調査をしたところ、非回線契約者への端末販売を拒否する店舗が少なからずあったとのこと。その割合はNTTドコモが22.2%、KDDIが29.9%、ソフトバンクが9.3%とのことで、各社が調査して報告した割合(NTTドコモが3.3%、KDDIが1.3%、ソフトバンクが2.3%)と比べ「極端に少ない」としています。
こうした状態が続けば端末購入プログラムの前提が崩れ、違法となってしまうことから大きな問題といえますが、なぜキャリアショップは非回線者への端末販売を拒否するのでしょうか。総務省が3社の販売代理店に実施した匿名インタビューによると、3社からショップに卸がなされる際の卸価格がオンラインショップの直販価格と同じであるため、そのまま販売すればショップは利益が得られないどころか、条件によっては赤字が発生するとの声があったようです。
そこでショップ側は端末販売で利益を得るため、独自に「頭金」と称した金額を上乗せして販売していたのですが、これが総務省の有識者会議などで「一般的な頭金の意味とは異なる形で使われている」と問題視されたことから、現在は頭金を徴収しないよう求められているようで、一層端末販売での利益が得られなくなっているとの声もあるようです。「販売しても儲からないから売らない」というのがショップ側の本音といえそうです。
ではなぜ3社が、ショップ側が利益が出せないような卸価格を設定しているのかといえば、端末の値引きで客を引き寄せ、高額な料金プランの契約を増やして稼ぐという、以前の販売手法から脱却できていないからこそでしょう。実際総務省の調査からは、電気通信事業法改正で端末販売の環境が変わってもなお、3社の販売代理店に対する評価軸が変わっておらず、そのことに代理店側が苦しんでいる様子も見えてきます。
例えば総務省が販売代理店に実施した匿名インタビューによると、ショップを評価するための軸が回線契約に紐づくものであったり、会社によっては大容量プランを多く契約することが重視されていることが多かったりするとのこと。また評価が低い店舗は閉店を勧告したり、中には強制的に閉店させられることもあるとの声が挙がっています。
そのことが無理な販売や勧誘にもつながっているようで、総務省がキャリアショップに実施したアンケートでは「利用者のニーズや意向を丁寧に確認することをせずに上位の料金プランを勧誘したことがあると回答した者は4割強」とされているほか、無理な営業の要因として「各キャリアが設定する営業目標を理由とした者が4割強存在した」としています。
今回の会合は一部が非公開とされたためこの件に関する具体的な議論を聞くことはできなかったのですが、一連の内容とこれまでの総務省の施策を考えると、これらの動向を受けて今後、総務省が3社に対して販売代理店の評価に関する大幅な見直しを迫る可能性が高いと考えられます。
先にも触れた通り、キャリアショップは消費者のデジタル化を推し進める上で非常に重要な存在となっています。それを今後も継続して活用していくのであれば、やはりキャリアショップの収益構造の大幅な転換は避けられないでしょうし、そのためには単に回線契約を重視した評価を改めるだけでなく、需要が高まっている「スマホ教室」など、今まで無償で実施しているサポートの有料化を積極的に進め、ショップの新たな収益源を作っていくことが必要でしょう。
ただその場合、サポート有料化に反対する声が消費者から少なからず挙がることが考えられるだけに、有料化への理解を深めながらも消費者のリテラシー向上にかかる負担を抑えることが求められます。社会のデジタル化を推し進めることの重要性を考えれば、行政もそうした部分で携帯各社に積極的に協力していく必要があると筆者は考えます。