24歳から絵を描き始めたプロイラストレーター乃樹坂くしお先生に聞く"夢の叶え方"
「コンピュータは文房具のように、子どもたちの学びを広げる道具」。
GIGAスクール構想によって、日本の子どもたちに「1人1台」のコンピュータが整備されつつある現在、現場の先生たちからそういった声がよく聞かれる。
とはいえ、使い方を知らなければ、せっかくの道具もその良さを生かすことはできない。そこで、AMDはデジタル社会に生きる子どもたちに向けて、パソコンをはじめとしたコンピュータをいかに活用していくかをテーマに、同社が一貫して行っているGIGAスクール等の教育分野への貢献プロジェクトとして、「AMDキッズ プロジェクト」を2020年からスタート。このプロジェクトでは、子どもたちに抽選で最新のパソコンをプレゼントしているほか、その活用方法のヒントとなるワークショップや特別授業などをあわせて行っている。
プロジェクトの第1弾として、小学生を対象に初めてのパソコンをプレゼントする「AMDキッズ・ファーストPCプレゼント」キャンペーンを開催。本記事では、第2弾として開催している「AMDキッズ・ティーンズ学園プロジェクト」で、パソコンを活用して夢を叶えたいという中高生を募り、当選した5人には最新の高性能パソコンがプレゼントされた。贈られたパソコンは、CPUにAMD Ryzen™ 7 5800H モバイル・プロセッサーを搭載した16.0型のゲーミング・ノートパソコン「Lenovo Legion 560 Pro」。パソコンゲームはもちろん、プログラミングや動画編集など、クリエイティブな用途にも使えるハイスペックな一台だ。
「Lenovo Legion 560 Pro」は、AMD Ryzen™ 7 5800H モバイル・プロセッサーを搭載。16.0型のディスプレーで画面も見やすく、勉強や趣味に活躍する一台だ。
「AMDキッズ・ティーンズ学園プロジェクト」ではさらに、5人がこの高性能パソコンを活用するヒントとして、プログラミングやクリエイティブ、ビジネスなどの分野で活躍するプロによる特別授業を行っている。当連載では、授業の様子とあわせて、5人のメンバーがパソコンに関する知識や、自身の夢や興味を深めていく姿も追っていく。今回は、6月13日に開催した第2回の特別授業「パソコンをクリエイティブに生かす方法」の内容を紹介していこう。
第2回目の授業イラストレーターの乃樹坂くしお氏
今回の講師は、イラストレーターの乃樹坂くしお氏。プロのイラストレーター/デザイナーとしてゲームやアニメのイラストを手掛けるほか、イラスト作成ツールを使い方やデジタルイラストの描き方についての書籍も執筆し、京都芸術大学で講師を務めるなど、多方面で活躍をしている。
イラストレーターの乃樹坂くしお氏。
今年4月には、VTuberなどが使うアバターモデリングの解説書を発売し、順調にプロとしての活動をしている乃樹坂氏だが、実はイラストを描きだしたのは、なんと24歳からだったという。
「それまでは、パソコンで絵を描いたこともなかった」という乃樹坂氏は大学まではスポーツばかりしていたため、イラストレーターを志したのは社会人になってからのことだった。
「毎日働いて帰って寝るだけの生活で、あまりにも無趣味だったので、ゲーム用のパソコンで絵を描き始めた」のがきっかけだったという。決意した当日に量販店へ行き、ペンタブレットを購入して絵を描き始めた乃樹坂氏だが、「絵ならだれでも描けると思ったが、いざ描いてみると、あまりの難しさにびっくりした」のだという。
「AMDキッズ・ティーンズ学園プロジェクト」のメンバーの一人、日高さんは漫画家を目指していて、現在はSNSなどで自分の作品を発表している。今回の授業では、終始ニコニコしながら、興味深く乃樹坂氏の話に聞き入っていた。
毎日の小さな達成感がやる気を起こし、目標に近づけてくれる
今回の授業では、メンバーからの質問を受けながら、乃樹坂氏がひとつひとつ答える形で進行していった。日高さんからは、「24歳からということで、相当練習したと思いますが、どうやったら集中できますか」という質問が出ると、「飽きないようにするのは大変だけど、続けることはそこまで大変じゃない」と乃樹坂氏。
さらに、飽きずに続けるための工夫として、「身近で簡単な目標と、大きな目標のふたつを設定する」といいとアドバイス。「簡単な目標は毎日変わってもいい。たとえば、『今日は5分だけ時間があるから、手を描く練習だけしよう』と、少しずつでもいいから、細かく目標を設定し、毎日達成していくことが重要。勉強もそうだけど、30分だけでもしっかり集中してできるとうれしいもの。自分にうれしい達成感をどんどん与えることで、やる気が途切れなくなる」と、乃樹坂氏は話した。
そして、自身の経験を振り返り「私は大人になってから絵を描き始めたから、学生時代からやっている方よりもっと書かなきゃと思い、3年間毎日描いていたら、絵の仕事をもらえるようになった」と語った。乃樹坂氏はメンバーに向けて、「イラストだけではなく、SEや弁護士、IT系の仕事でも、毎日5分でもいいので続けていくことが夢に近づくこと」だとメッセージを伝えた。
乃樹坂くしお氏が授業中に見せてくれた自身のイラスト作品。美しい色彩とやわらかなタッチで、女の子たちが生き生きと描かれている。
なにごとも使わないとわからない、パソコンで色々と経験を
さらに乃樹坂氏はパソコンの活用についても触れ、「パソコンは基本的には常に正しい結果を出し、誰にでも同じものを返してくれる平等な機械」だと話した。そして、「皆さんにプレゼントされたパソコンはとても高性能なので、ゲームでもプログラミングでも調べものでも、やりたいことが何でもできる。パソコンでもソフトでも使わないとわからないので、ぜひ興味あることをパソコンで色々と経験してほしい」と伝えた。
パソコンでできるひとつの例として、自身が書籍も執筆した「Live2D」で作成したアバターを、Zoomの画面上に登場させてメンバーに紹介した。「VTuberなどが使っている、自分の動きにあわせて動くアバターなどは、10年前には考えられなかったけれど、現在は当たり前のように実現している。これも、やりかたが分からなければできないけれど、知っていればこんな風にZoomにも登場させられる」と乃樹坂氏。メンバーも、リアルタイムに動くかわいいキャラクターを興味深く見入っていた。
アバターのモデリングも手掛けている乃樹坂氏。Live2Dで作成した自作のアバターを披露し、自分の動いたとおりにキャラクターが動く様子を実演してくれた。
どんな仕事でもインプットは重要
授業では、イラストレーターという仕事に対しての質問もメンバーから複数挙がった。
「趣味でイラストを描く人もいる。どこからがプロなのか」という質問について乃樹坂氏は「自分の作品、仕事に対して責任がもてるのがプロ」という自身のポリシーを語った。さらに「納期に関係なく自分の120%の作品を作るのは芸術家であり、決められたスケジュールの中で、80%の力をコンスタントに出せるのがプロだと思う」とし、「仕事となると、イラストレーター以外にも大勢の人が関わっているので、気に入らないからといって待ってもらうわけにはいかない。自分のなかで最低限責任の持てるライン決めて、一定のクオリティ保ったまま締め切り守れる人が強い」と話した。
また、一日のスケジュールについて聞かれると、「午前中はフリーで好きなことをし、午後から仕事をして、遅くても22時には終わるようにしている」と回答。ただし、仕事が立て込んでいるときは、朝まで仕事をして短時間睡眠したのちに、仕事を再開するといった時期もあったという。「でも、無茶なスケジュールは長続きしないし、精神的に不安定になると作品にも出てしまう」と気づいてからは、睡眠をしっかり取り、規則正しい生活をするようになったと明かしてくれた。
佐伯さんから「一番大切にしている道具や物」を聞かれた乃樹坂氏は、「健康な心と体」と即答。「心と体は資本なので、そこが崩れるといい作品が描けない。そのため、腱鞘炎や目の疲れといったイラストレーターにつきものの問題に対して、どうするか考え、良い椅子や大画面モニターを導入するなどして、原因となるものを解消していった」と話した。
さらに、全員へのアドバイスとして「インプットの重要さ」を挙げた。「どんな仕事でも知っているか知らないかでは大きな差が出る。自分の中に知識として蓄えておかないとアウトプットもできない。イラストレーターの場合は、アニメやゲーム、小説、映画、海外のテレビだけでなく、イラストのトレンドを知るためにもSNSでの情報収集は欠かせない」と話した。
乃樹坂氏の使用ツールとして挙がった「CLIP STUDIO PAINT」は、プロからも高い支持を受けている人気の漫画・イラスト作成ツール。
乃樹坂氏は「CLIP STUDIO PAINT」の解説書も執筆している。
授業を通じて将来の夢への手がかりを見つける
「AMDキッズ・ティーンズ学園プロジェクト」では、たんに授業を受けて終わりではなく、そのあとにそれぞれに授業で学んだことをもとにどう考えたのか、自分の将来の夢やパソコンの利用法に役立つかを考え、アンケートとしてまとめている。今回の授業を受けたメンバー全員が「夢に役立った」と回答しており、満足度の高さがうかがえた。
さらに、メンバーからはそれぞれが感じた率直な意見が寄せられた。
「先生が24歳に絵を描き始めてイラストレーターになったと知って、短期間でも努力すればなれるものなんだと驚いた。ペイントソフトや機材など参考になることも沢山教えてもらい、とても勉強になった」(前田さん)
「キチンと生活習慣を整えるのが一番大事だという話が、とても印象に残った」(日高さん)
「イラストレーターの方のお話を聴ける機会は今まででなかったので、全てのお話が興味深く、とても勉強になりました。どうしたらプロと呼べるのか、イラストレーターさんの1日のスケジュールなど、聴いた内容の全てが初めて知ることばかりで面白かったです」(相馬さん)
「必要なもの、困っていることから考えて、物事を整備するという考えが凄いなと思った」(佐伯さん)
今回も、1時間の授業の中から一人一人が自分の夢につながる部分を見つけ、糧にしていく様子を感じられた。
第三回は風力での自動ヨットを開発したベンチャーCEOが登壇
今後の授業予定 | ||
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テーマ | 講師 | |
第1回 授業 | プログラミング | 寺本大輝 先生(プログラマー / ハックフォープレイ株式会社 CEO) |
第2回 授業 | クリエイティブ | 乃樹坂くしお 先生(イラストレーター / 京都芸術大学講師) |
第3回 授業 | ビジネス | 野間 恒毅 先生(エバーブルーテクノロジーズ株式会社 CEO) |
次回も引き続き、「AMDキッズ・ティーンズ学園プロジェクト」特別授業と、参加したメンバーの様子や感想をご紹介する。
第3回の特別授業のテーマは「ビジネス」。風力をエネルギーとし、無人帆走技術を使って自動走行する帆船を開発するエバーブルーテクノロジーズのCEOである野間恒毅氏が登壇。起業にまつわる裏話から、海上の再生可能エネルギーを活用するというSDGsにもつながるお話などをうかがう。
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