沿って, smartwatches 05/08/2022

破壊的イノベーターになるための7つのステップ(その5) - しゅんぺいた博士と学ぶ破壊的新規事業の起こし方(玉田 俊平太さんコラム - 第8回)

前回までのコラムで私たちは、ブレインストーミングで出された多くのアイデアの中から、自社に適したアイデアを選び出すための考え方について学びました。ある企業にとって破壊的なイノベーションとは、その企業の優良顧客に見せても性能が低過ぎるため「そんなものはオモチャだ」と言われ、買ってもらえないような新製品や新サービスのことでした。そして、その「ある企業」は、ライバル企業である場合も、自社である場合もあり得ます。したがって、イノベーションには、(1)ライバル企業にとって破壊的か持続的か、(2)自社にとって破壊的か持続的かで「2通り×2通り」の4種類に分類することができるのでした(下図参照)。

そのイノベーション誰にとって破壊的?

資料:執筆者作成

今回は、4種類のイノベーションの最後のタイプである「自社にとっても破壊的」だが「他社にとっても破壊的」なアイデアをどう実現したら良いかについて学びましょう。

私は時折、長い歴史を誇る立派な企業の経営者から「私も常々、社内に『破壊的イノベーションを起こせ』と発破をかけているが、なかなか社内から出てこない。どうしたら良いか?」という悩みを相談されることがあります。しかし、理論のレンズを通してみれば、それは至極当然のことなのです。

そもそも破壊的なイノベーションとは、(1)性能が低いために自社の既存顧客には「そんなオモチャは要らない」と拒絶され、(2)全く新しい市場を対象とするため、いくらで売れるかも何台売れるかもハッキリしない(もしくはローエンド市場を対象とするため儲からない)、という特徴を持つイノベーションです。

だから、既存顧客満足の最大化や利潤の極大化を最優先する大企業で、いくら経営トップが上から「破壊的イノベーションを起こせ」と発破をかけても、社内に深く根付いた「価値基準(優先順位)」や意思決定の「プロセス」が「抵抗勢力」となり、破壊的なプランは何階層もある社内意思決定プロセスを決して通過できないのです。

ですから、大企業で「破壊的イノベーションを起こせ」と号令をかけることは、空高く矢のように上昇することに最適進化した猛きん類に「今日から地面に潜って、モグラと一緒にミミズを捕れ」と命じるがごとくで、土台無理なのです。

それでは、歴史ある大企業が破壊されるのを防ぐには、どうすればいいのでしょうか?理論が教えてくれるアプローチは4つあります。

の4つです。今回はその中で、(1)「破壊的イノベーションを最優先する別組織を立ち上げる」について詳しく述べます。

破壊的イノベーションを起こすことは、これまで述べてきた通り、既存組織では理論的に不可能です。その目的を達成するためには、(1)別組織を立ち上げて十分な経営資源を与え、(2)破壊的イノベーションの実行を最優先する価値基準(優先順位)やビジネスプロセスを持たせ、(3)あたかも熱力学上の架空の存在である「マックスウェルの悪魔」のようなトップ(後述)が運営する必要があります。

これは昨今「出島」として経団連のリポートでも注目されている方法です。ソニーの「スタートアップ・アクセラレーション・プログラム」もこの理論に当てはまります。

まず、独立した組織の重要性についてです。よくある間違いは、社内で破壊的イノベーションのアイデアが生まれた際に、それを「既存の事業部」に任せてしまうことです。

破壊的アイデアを投げ込まれた事業部は、今抱えている顧客の満足を最大化しようと持続的イノベーションに最優先で取り組んでいるため、「売れるかどうかもよくわからない破壊的なアイデア」には経営資源を十分に割り当てずに放置することになります。

いくら良いアイデアでも、養分が十分に与えられなければ立ち枯れてしまうのは必定です。ですから、破壊的イノベーションを起こしたければ、独立した組織を設立し、社内外のベンチャーキャピタルなども活用して自由に使える経営資源を十分に与える必要があります。

また既存組織の価値基準は、より高額な商品を売ることを評価してそれを実現するために、セールス担当に対し売上高に応じたインセンティブ(誘因)を設けている場合があります。こうした組織で働くセールス担当に、価格が安く利益率も低い破壊的な商品を売れと言っても、その価値基準に反するため難しいでしょう。

なぜなら、セールス担当はなるべく多くのインセンティブを得るために、朝一番で既存商品を使っている優良顧客に出向き、既存商品のアップグレード版を高い値段で売ることに最も時間を割くからです。優良顧客から見向きもされない破壊的な製品は、こちらからも熱心に勧めないため、大して売れることはないでしょう。

ソニーが家庭用ゲーム機市場に進出した際、もし社内の一事業部で取り組んでいたとしたら、他の電機メーカーと同様にハードウエアのコストに一定の利幅を乗せて高い販売価格を設定し、月並みな成果しか挙げられなかったでしょう。

だがソニーは、ハードウエアで儲けるソニー本体の価値基準とは異なり、ソフトの製造委託費などの「プラットフォームビジネスで稼ぐ」という新たな価値基準を持つ別会社として「ソニー・コンピュータエンタテインメント」(当時)を設け、最速で「プレイステーション」を100万台普及させるというゴールを設定しました。

その実現のため、CPUをまとめて100万個発注しコストを下げ、当時のハイエンド(高機能)グラフィックスワークステーション並みの3次元画像処理能力を持つゲーム機「プレイステーション」を、当時としては格安の値段で販売して普及させ、有力ソフトハウスをプレイステーションプラットフォームに呼び寄せて、今に続く金城湯池(きんじょうとうち)を創り上げました。

ビジネスプロセスについても同様です。破壊的なビジネスモデルを実現するには、既存の組織同士が従来通りの方法で連携するのでは困難な場合が多いです。

たとえば、日本で消費者向けに自動車を販売しているホンダが、ビジネスジェット事業を成功させるためには、新しい技術を新たな組み合わせで設計した機体を製造し、主要市場である米国の連邦航空局の承認を取り、日本の個人ではなく米国の企業向けに売り歩く必要がありました。このためには、全く新しいビジネスプロセスを持つ独立した組織を設けることが望ましいです。事実、ホンダは米国にビジネスジェットの開発・販売に特化したプロセスを持つ別会社を作り、小型ビジネスジェット機市場でトップクラスのシェアを得ています。

破壊的ビジネスを遂行するための別組織を作ったとして、次に以下のような疑問が立ち塞がるでしょう。(1)破壊的商品につけるブランドは親元と同じにすべきか?(2)親企業の人材を受け容れるべきか?(3)親企業からのさまざまなアドバイスを受け容れるべきか?(4)その他親企業のさまざまな経営資源をどの程度活用すべきか?

これらの問いに対する答えは基本的にノーですが、理論的に解が一つに定まるわけではありません。

ですから、独立した組織の経営を任されたトップは、あたかも熱力学上の架空の存在である「マックスウェルの悪魔」のように振る舞わねばなりません。すなわち、必要と思われるアドバイスや経営資源にはドアを開け、どんなに相手が良かれと思っていても、自社にとって必要のないものには目の前でドアをピシャリと閉める、そんな勇気と権限を持つリーダーが、破壊的イノベーションのための組織には必要不可欠なのです。

いかがでしたか?さらに勉強を深めたい方は、拙著『日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』をお近くの書店等で手に取ってみてください。

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玉田 俊平太(たまだ しゅんぺいた)

関西学院大学 経営戦略研究科 研究科長、博士(学術)(東京大学)

1966年東京都生まれ。東京大学卒業後、通商産業省(現:経済産業省)に入省。ハーバード大学大学院にてマイケル・ポーター教授のゼミに所属、競争力と戦略との関係について研究するとともに、クレイトン・クリステンセン教授から破壊的イノベーションのマネジメントについて指導を受ける。筑波大学専任講師、経済産業研究所フェローを経て現職。著書に『日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』(翔泳社)、『産学連携イノベーション―日本特許データによる実証分析』(関西学院大学出版会)など、監訳にロングセラーの『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)、『イノベーションへの解』(翔泳社)などがある。

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